
医学部の専門科目がはじまって、最初に行う解剖学実習は骨学(コツガク)という骨の実習です。本物の人間の骨が衣装ケース程度の大きさの木の箱に入っています。
その箱から骨を取り出して、スケッチをします。ふつうのスッケッチブックに鉛筆でスケッチをするのです。これなら美術専門学校と変わらないですネ。医学部ではそのスケッチした絵に骨の部位の名前を記入して覚えるのです。
なんだそんなの簡単じゃん。と言われるかもしれません。ところが骨にはたくさんの小さな穴があったり、ザラザラした面があったりして、その一つ一つに名前が付いています。
一番複雑な形をしたのが頭蓋骨です。脳から神経や血管が小さな穴を通って頭蓋骨の外に出ます。この孔(アナ)の一つ一つに名前がついていて、そこを通る神経が脳神経の何番目でどういう働きをするか?孔(アナ)から入る動脈は何という名前で、どこから来てどこへ入るかなど、全部覚えなくてはなりません。卵円孔(ランエンコウ)→Foramen
ovale(フォラーメンオバーレ)→下顎神経、中硬膜動脈副硬膜枝など。フォラーメンなんて味噌ラーメンなら知ってるけど…。この変てこりんな名前を数限りなく覚えるのです。
覚えるだけで気が遠くなりました。しかも、日本語の他にラテン語の学名や英語でも覚えます。
私が苦労したのは、スケッチができなかったからです。小学生から図工の工作は得意でしたが、図画は不得手でした。展覧会で金色のシールを貼ってもらっている友だちがうらやましかったです。父母参観日などでも、教室の後ろに貼ってある絵を見られるのが一番イヤでした。
美術が得意で、美大に行った友人に聞きました。オレ骨の絵が書けなくて困ってんのよ。どうしたらお前みたいに上手に書けるの?本間、骨の絵が書いてある本かなんかあるベ。その本見てよ、真似すんのよ。
その友人のアドバイスで、私は当時三越の隣にあった丸善に行って、線画で描かれた骨の教科書を買いました。その絵を真似して書くうちに骨の絵が描けるようになりました。
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