医療問題

高まる要求_疲れる医師

 平成22年9月21日、朝日新聞朝刊の記事です。
 興味深い内容だったので、長い文章ですが引用しました。
 医学部の学生さんや外科医に読んで欲しい内容です。
 働く_専門職エレジー①
 高まる要求_疲れる医師
 「悩み同じ」パイロットとシンポ
 「医師なら安心と思っていたのに」。鳥取県で飲食店を営む前田三女子(みなこ)さん(60)は、声をつまらせる。2003年、鳥取大の大学院生だった息子の外科医、伴幸さん(当時33)は運転中、対向してきたトラックに衝突して亡くなった。前日、同大大学病院で未明まで緊急手術の助手を務めた後、寝ずにアルバイト先の病院へ向かう途中だった。
 大学病院では実習として連日、早朝から夜9時ごろまで無給で診療や手術に携わり、さらに授業料や生活費を稼ぐため関連病院でアルバイト。事故前1週間の労働時間は約100時間。過労による居眠り運転だった。三女子さんらは損害賠償請求訴訟を起こし、昨秋、大学の安全配慮義務違反が認められた。
 事故後、大学院生の労働時間には気を使うようになったが、その分、医師の勤務が厳しくなったと間いた。裁判の過程で、研修医や麻酔科医、小児科医など、勤務医の過労死や過労自殺が各地で相次いでいることも知った。「現場がこんなに荒れていたとは」
  「このままでは体も家庭も危ないと思った」。今年春に外科医をやめた医師(33)は言う。週80~100時間労働は当たり前。夜中も頻繁に呼び出し電話がかかる。2006年、手術した患者が死亡したことで福島県の病院の医師が逮捕され、訴訟の不安が頭を離れなくなった。子どもが生まれたことをきっかけに他科に変わることにした。「人間らしい暮らしがしたかった」

 「医師の過重労働~小児科医療の現場から」の著者で医師の江原朗さんは、高齢化で医療の需要が増え、医療技術の高度化で患者の要求度が高まる一方、自治体の財政難や診療報酬の抑制で医師数は追いつかず、労働強化が進んだと分析する。医師にも労働基準法は適用されるが、医師法の「正当な理由がなければ応召を拒めない」との条項が壁になっているという。
 2005年の日本小児科学会報告書では、夜間の小児救急を行った医師の9割が翌日も引き続き勤務し、連続32時間働いていた地域もあることが示された。「米国では医師の長時間労働と医療ミスの相関関係を示す研究もある。安全な医療に必要な医療費負担を引きうける覚悟があるのか、社会が問われている」
 昨年、そんな医師たちが「全国医師ユニオン」を結成した。一人で加入できる初の医師のための全国労組だ。
 「医師も労働者として支えないと医療の安全も保てない」と楠山直人代表は話す。
 
 その動きに、思わぬ人々が注目した。大手航空会社の機長らが加入する日本乗員組合連絡会議だ。この7月、都内で「命と安全を守り労働のルールを考えるシンポジウム」を共催した。
 規制緩和で地方空港の開港時間が延び、今年10月からは羽田空港の24時開化も始まる。企画者の一人、全日空の機長(46)は「疲労がたまる24時間体制の職場で顧客の生命を守らなければならない仕事。技術の高度化で、顧客の間にできて当たり前という意識が強まっているのも医師と共通の悩みだ」と話す。
 機長はシンポの会場で、2000年、先輩機長が佐賀空港に着陸直前に操縦席内で脳出血で倒れ、着陸後に亡くなった事を思い出していた。
 先輩機長は倒れる前日、羽田から佐賀、佐賀から伊丹と飛んだ後、翌日の乗務をこなすため乗客として仙台に移動。仙台で1泊し、翌朝、仙台から名古屋、名古屋から青森、青森から名古屋へと飛び、さらに名古屋から佐賀に向かうところだった。
 前日の朝から翌日の夕方までの長い拘束に加え、名古屋空港では大型台風による風雨の中で着陸するという緊張を強いられた。名古屋で体調悪化を訴えたが交代要員がいないため、勤務を続けた結果だった。だが過労死に認定されるような残業はなかったとして労災申請は却下された。遺族は国に労災認定を求めて今も係争中だ。
 この事件のころから機長の欠勤発生率は上昇傾向をたどり、高止まり状態が続く。航空分野の規制緩和で、90年代半ばごろから機長の乗務時間の制限が緩和された。客室乗務員らの非正規化が進み、機長の負担は重くなっている。「一般の働き手とは異なるストレスがかかる機長という仕事に見合った疲労度テストや、労働時間制限が必要だ。専門職のやる気と責任感だけに依存し続ける時代ではない」と、機長は言う。
     ◇
 資格や技能で社会に貢献でき、不況にも強いといわれてきた専門職が、揺らいでいる。規制緩和や財政難で負担増に悩むその素顔を追う。
 (編集委員・竹信三恵子)


「いのち」の文字を背景に、人の生命を守る専門職の労働条件のあり方について、医師ユニオンと航空機の機長らの労組が共催したシンポジウム=7月31日、東京都内

 
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      ■         ■
 

 パイロットへの夢という院長日記を、
 2009年1月6日書いています。
 私の夢はパイロットになることでした。
 私と高校の同期の友人は、
 大手航空会社の機長です。
 家内の友人のご主人にも、
 機長さんがいます。
      ■         ■
 機長さんに聞いたことがあります。
 ベテラン機長として、
 定年まで勤めるのは…
 大変なこと。
 航空身体検査があり、
 心身ともに健康でなければ、
 ストレスの多い機長は務まらないそうです。
      ■         ■
 何度も書いたことがありますが、
 医療の安全と航空機の安全には、
 共通することがあります。
 私が30代~40代で、
 総合病院の形成外科に勤務していた時です。
 緊急の手術が夜間に入って、
 次の日も、長い手術があると、
 とても困りました。
      ■         ■
 搬送された急患は断れないし…
 翌日にはまた長い手術です。
 56歳の今は、
 体力的に、到底無理です。
 医療とか…
 航空機とか…
 安全が最優先される職種では、
 格安とか激安は、
 合わないと思います。
      ■         ■
 最近は、
 アジア圏の航空会社に、
 格安のところが出ています。
 私は…
 いくら安くても
 当分の間は利用しないと思います。
 医療にかける国のお金の使い方も、
 もっと工夫すれば、
 お医者さんの将来も明るくなると思いますが…
 今の国の政策では…
 将来は暗いです。
 激安安全買えません

“高まる要求_疲れる医師”へのコメント

  1. メガネ より:

    「高まる要求」−。
    要求しているのは、それはいったい、誰のことか・・・。

    実は、それは、ごく一般の市民である、普通の私たちのことなのかもしれません。
    なのに、そのことに、謙虚に気がついている人はどれだけいるのだろうか、と考えてみると、意外と少ないのかもしれません。
    そんなことをいう自身を自戒しながら、今、この場をお借りしながら投稿させて頂いております・・・。

    この時代、これほどまでに医療技術が発達、進歩した現代社会においては、「診てもらって当たり前」、「私の病気が治って(私の病気を治してもらって)当たり前」というふうに無意識に捉えてしまっているかもしれません。いえ、そう考えている傾向にあると思います。
    そこに潜む危険性については、賛否両論はあるかもしれませんが小松秀樹医師が「医療の限界」という書籍において痛烈に問題提起をなさったのは、つい最近のことであります。
    どんなに科学技術が発達しようとも、医療には不確実性が伴う、医療には限界があるのだということを、その厳然たる事実を、客観的に、また冷徹に指摘をなさっておられました。

    先日、9月16日付けの北海道新聞コラム「朝の食卓」において、釧路の医師である井須豊彦医師が「画像は万能か」というタイトルで、次のように述べておられました。
    「〜すべての病気が画像で見つかると考えると、見逃すこともあります〜」「〜科学技術が進歩しても、医療の基本は人対人のコミュニケーションです〜」として、患者・医療者双方に対して警鐘を鳴らしておられたように思います。
    技術(MRI等の画像)が進化した現代においては画像一発で疾患の確定診断がつくと考えてしまう医師、そして、患者さん双方に対して、問題を提起されていたのではないだろうかと受け止めました。
    医師は医師で、また、患者は患者で、医療機器至上主義というか、「これで分からないはずはない」「これで治らないはずはない」と無意識のうちに考えてしまい、時に医師は本質を見逃す危険性、そして患者は「なんで治らないんだ」と医師を責める(モンスターペイシャント化する)危険性を指摘されているように感じた次第です。

    「命」を取り扱う代表的な専門職である航空・医療の世界においては、「格安」「激安」というようなフレーズは、全く相容れない概念のように感じます。
    メディアの時代とはいえ、殊に、こういった業界においては、「派手な宣伝」というものは似つかわしくないように思えます。
    良識派であるならば、そういった宣伝に対しては、一歩立ち止り、「怪しいぞ」と疑いを持たなければならない時代にあるのだと、私は考えています。

    今日、先生が引用されました朝日の記事に関しましては、とても考えさせられました。

    「技術の高度化で、顧客の間にできて当たり前という意識が強まっているのも、医師と共通の悩みだ」−。

    水と空気のように当たり前にあると捉えがちな医療。
    しかし、実は、決して、当たり前にあるのではありません。
    医師を疲弊させてしまい、「立ち去り型サボタージュ」を出してしまった原因は、ごく普通の一般市民の私たちにあったのかもしれません。

    【札幌美容形成外科@本間賢一です】
    コメントをいただきありがとうございました。
    読んでいただけただけでも嬉しいのに、長いコメントをいただき感謝しております。

  2. 江原朗 より:

    92年から93年にかけて市立札幌病院の小児科のレジデントをしていました。2か月麻酔科を回った際に、形成外科の手術にもかかわらせていただき、ありがとうございます。

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