昔の記憶

弟のキズ

 私には弟が一人います。昭和33年1月に、弟も市立札幌病院で生まれました。
 年齢差は3歳4ヵ月です。
 現在は、本州に住んでいます。サラリーマンです。
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 小さい頃は、弟とよく喧嘩をしました。私が大きくて強かったので、いじめていました。
 弟の左眉にキズがあります。キズのところだけ毛が生えていません。
 小さい頃に、私がケガをさせてできました。
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 今だったら、毛が生えていない部分も、キレイになおしてやれますが、当時は形成外科がありませんでした。
 悪いことをしたと子供心にずっと気にしていました。
 ふざけて遊んでいたつもりでしたが、血が出ていたのを見てびっくりしました。
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 元、看護婦さんだったマーちゃんのおばさん(お母さん)に助けていただきました。
 母が、「あんた何やったの!マーちゃんのおばさんを呼んできて!」と叫びました。
 マーちゃんのおばさんは落ち着いていました。さすがです。
 その後、外科の先生に診ていただきました。
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 結局、弟のケガは縫合せずに治しました。
 今でしたら、全身麻酔で丁寧に縫合するか?当時と同じように、縫合せずに薬で治して、気になれば修正するか?といったところです。
 ケガをして、泣き叫んでいる子供を丁寧に縫合することは不可能です。
 手術台の上に横にさせるだけでも、手をバタバタ、足をバタバタで大変です。
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 全身麻酔を安全にかけるためには、胃の中が空っぽでなくてはできません。
 麻酔をかけている時に、吐いてゲボが肺に入ると危険だからです。
 一刻を争うような緊急手術でしたら、リスクを承知で全身麻酔をかけることがあります。
 食事をしたばかりで、お腹いっぱいの状態を麻酔科ではFull Stomach(フルストマック)と呼びます。
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 顔のケガでしたら、後日修正手術も可能ですので、よほどでなければ、Full Stomachで全身麻酔をしません。
 50年前でも、今でも弟が受けた治療は同じだったと思います。
 その結果、弟の左眉には5㎜程度のキズが残りました。
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 何歳ころまでかは忘れましたが、弟に『兄貴がつけたキズだ』と言われたことを覚えています。
 形成外科医になってから、弟に『お前のその眉のキズ治そうか?』と言ったことがありました。
 弟は『…?…?』といった感じでした。
 兄貴、今頃何言ってんの?って感じに受けとめました。
 私はそのキズのことをずっと覚えていましたが、弟は私より気にしていなかったと、その時に思いました。
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 たった5㎜程度の小さなキズでも、人によっては‘忘れられない’‘気になる’キズのことがあります。
 キズは、皮膚の表面にもつきますが、人の心の中にも残ります。
 私たち、形成外科医は、皮膚の表面についた小さなキズを治すことで、心に残ったキズも治るように努力しています。
 もし、気になるキズがあれば一度形成外科専門医に相談なさるとよいと思います。

私3歳、弟3ヵ月
ケガをする前です

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