医療問題
培養皮膚の現実
昨日、名古屋のベンチャー企業、J-TECが開発した培養皮膚の記事を紹介しました。この新聞記事を読むと、培養皮膚を使うと、どんなヤケドでも元通りキレイに治るような印象を持ちます。
6月8日の日記にも書いてありますが、1,000万円もする培養皮膚を使っても、深いヤケドを負うと‘絶対’に元のツルツルの肌には戻れません。
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子供さんがヤケドをすると、『先生、どんなにお金がかかっても、私の皮膚を採っても、とにかく痕(アト)が残らないようにキレイに治してください』と懇願されることがあります。
親として当然の気持ちですし、私も同じ立場だったらそう言うと思います。新聞に1,000万円の培養皮膚の記事が出ると、その切抜きを持っていらっしゃる方もいると思います。
残念なことに、こんなに医学が進歩した世の中でも、神様がお作りになった、ヒトの皮膚を人工的に作ることはできません。
培養皮膚と言っても、現時点でできるのは、オブラートのように薄くて弱いペラペラの‘培養表皮’です。
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昨日、培養皮膚のことをGoogleで検索していたら、米国のサイトを見つけました。英語で培養皮膚のことをcultured skin(カルチャード スキン)といいます。
そこに培養表皮で治療に成功した子供さんの写真が掲載されていました。
下の写真は本人が特定できないように、顔の部分を外したものです。
首から胸、両腕にかけて赤くなっている部分が、培養表皮で治したと考えられる部位です。
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赤くなっているのは、瘢痕(ハンコン)とか肥厚性瘢痕(ヒコウセイハンコン)と呼ばれるキズです。
培養皮膚は、元のツルツルの肌に戻せるのではなく、グチャグチャになって、血が出て滲出液が出て、そのままだとキズからバイ菌が入って死んでしまうようなキズを、早く治すのに役立つだけです。
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それでも、そのままだと死んでしまう命を助けられるのはすばらしいことです。
救命ということだけを考えると、現在は培養皮膚よりもスキンバンクという‘亡くなった方の皮膚’の方が有用性があると思います。
私は直接治療にタッチしていませんが、あのコンスタンチンちゃんを救ったのは、東京から空輸された、亡くなったおばあさんの皮膚だと聞いています。
現在、旭川赤十字病院形成外科部長をしていらっしゃる阿部清秀先生と札幌医科大学形成外科の当時のスタッフが救命しました。
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新聞報道は、新しいことを伝えなければなりません。
朝日新聞のような大新聞は購読者も多く、新聞を読むと‘すごい!’と驚くこともたくさんあります。
署名記事で、記者の熱意も伝わってきます。ただ、もう少し専門家に検証するなどして、‘現実’を伝えないと、間違ったイメージを植えつけてしまいます。
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現在、子供のヤケドを治すのに、もっとも優れた薬は6月7日の日記に書いた、bFGF(ベーシック・エフジーエフ)という薬です。商品名をフィブラストスプレーと言います。
この薬は、もともと褥瘡(ジョクソウ)という床ずれのキズを治すのに開発されました。
バイオ技術で作られた薬です。日本の科研製薬という会社が開発しました。
残念なことに、科研製薬も厚生労働省も、ヤケドに使うことを認めていません。‘ヤケドに使うな’と注意が書いてあります。
ところがこの薬を使うと、いままでは絶対に痕(アト)が残っていたようなヤケドもキレイに治ります。1万円ほどの薬ですが価値があります。
私は一日も早く子供のヤケド治療に、この薬を使えるようにして欲しいと願っています。
新しい厚生労働大臣に、この日記を読んで欲しいです。
培養皮膚で救命した子供さん |