医療問題

産科医不足の理由

 産科医になる医学生が減っています。産婦人科を専門とする医師も減っています。なぜでしょうか?
 福島県で、産婦人科医師が業務上過失致死で逮捕された事件がありました。
 下は2006年3月10日の読売新聞の記事です。
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 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に同県内の女性(当時29歳)が出血性ショックで死亡した事故で、福島地検は2006年3月10日、手術を執刀した産婦人科医師の加藤克彦容疑者(28)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。
 起訴状によると、加藤容疑者は、事前の検査で胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出などを行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたとされる。さらに、医師法で定められた24時間以内の警察への届け出をしなかったとされる。
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 一般の方は、1年以上前のことですから、忘れてしまっていると思います。‘あぁ、そんなこともあったねぇ~’程度でしょう。
 この事件は医療関係者には、インパクトのある事件でした。福島地検がどのように判断して逮捕・起訴に踏み切ったかは不明ですが、これで産婦人科になるのをやめた医学生も多いと思います。
 日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は連名で「本件は癒着胎盤という治療の難度が最も高い事例。全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない」との声明を発表しました。
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 一部のマスコミも産科医の‘医療ミス’を強調した報道をしました。
 私を含めた医療関係者の見方は違います。亡くなった妊婦さんは気の毒ですが、癒着胎盤という難手術を一人で執刀しなければならなかった、医療体制に問題があると思いました。
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 米国では法曹人口の増加から、医療訴訟が当たり前のように行われています。
 日本でも新しい司法試験制度により、今後、弁護士が急増する可能性があります。
 言葉は悪いですが、弁護士さんにとって医療訴訟は、高額の賠償判決さえ勝ち取れば、高額の成功報酬を手にできる‘おいしい仕事’になる可能性が十分にあります。
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 一般の方は、お産は‘安全’で‘リスク’も少ないと考えていらっしゃると思います。
 平成19年2月5日の日記にも書きましたが、お産は決して安全でリスクがないものではありません。美容外科の手術より、よほどリスクがあります。
 どんなに腕のよい弁護士さんを雇って、高額の賠償金をもらっても、自分や子供の命にはかえられません。
 ふだんから、健康管理に気をつけて、丈夫な子供を産める体力をつけておくこと。
 信頼できるかかりつけ医を見つけて、妊娠したらしっかり診てもらうこと。
 医学生が産婦人科医になりたいと思うように、産婦人科医の待遇を改善する医療政策が重要だと思います。

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