医療問題
お父さんの仕事は当直
私が以前勤務していた総合病院の産婦人科の先生の話しです。
子供さんが幼稚園で先生から『お父さんのお仕事は?』と聞かれて、答えたのが、
『うちのお父さんのお仕事は当直!』
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『いゃ~ぁ、参ったよ!』
確かに、週に2回も3回も当直があって、家に帰ると子供はすでに寝ているので、毎日寝顔を見るだけ。
子供が妻に『今日もお父さんいないの?』と聞くと、
『お父さんは、今日もお仕事で当直なのょ』
幼稚園でお父さんのお仕事は当直と答えても当然だよね。
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その総合病院では、院内当直と救急当直の他に、外科と産婦人科は科内当直を置いていました。
大学病院では、各科毎に当直医がいるのが当たり前ですが、総合病院では病院当直が一人です。
各科の医師は、オンコールといって、何か用件があれば電話で呼び出されるシステムです。
医療法の規定では、30床の病院でも800床の病院でも当直医の数は一人です。つまり、小規模であろうが大規模であろうが当直医の数は一人が法定数です。
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地域周産期母子医療センターは母体搬送など、他の医療機関で手に負えない妊婦さんの治療をします。高度の専門知識を持った医師やスタッフが必要です。
産婦人科専門医の数は少なく、最も医師数が多い施設でもせいぜい6人程度です。
その中には、一人では満足に治療ができない先生もいるので、中堅の医師にかかる負担はかなりのものになります。
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重症の妊婦さんは、急に容体が変化することもあります。
たとえ緊急手術をしたとしても、その後に術後管理をしなくてはいけません。
下の先生が当直当番でも、頼りなかったら上の先生(業界用語でオーベンと言います)がつくこともあります。
その結果が『うちのお父さんのお仕事は当直!』ということです。
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以前にも書きましたが、お産はある一定割合で必ずトラブルになります。
医学が発達したのに、たかがお産ごときで死ぬことなんて無いと思っていらっしゃる方が多いと思います。ところが世界中ではかなりの数の妊婦さんと赤ちゃんが亡くなっています。
お産はもしトラブルになると、赤ちゃんとお母さんの2人の命が危険になります。
妊婦さんの側に、喫煙・性感染症など、問題がある方が増えているのも事実です。
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昔から、医者で一番の早死には産婦人科と言われています。
ストレスが多く、時間が不規則で、拘束時間が長い…、少しくらい給与が高いだけでは産婦人科医になる人はいません。
医学生や臨床研修医は、冷めた眼で現場を見ていますので、産婦人科医になる人は減っています。
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産婦人科医はリスクの大きな周産期治療ではなく、自由診療で料金が高い不妊治療などを専門にするようになります。
私は韓国で、産婦人科を辞めて美容外科になりたいという先生に‘二重まぶた’の手術を教えました。
安心して子供が生める医療システムを作らないと日本は滅びます。