医療問題
精神と犯罪
各地で凶悪な犯罪が目立っています。
優秀な弁護士さんは、‘責任能力’を強力な武器として、
無罪を主張してきます。
そうすると、‘犯罪者’の中には、刑務所ではなく、
精神病院へ入院させてもらえる人が出てきます。
■ ■
刑務所と精神病院では待遇に雲泥の差があります。
食事一つとっても、
‘犯罪を犯した患者’だからといって、
差別されることはありません。
一般の入院患者さんと同じ、病院食が出されます。
希望すれば、おかわりもできます。
■ ■
私は学生時代に、真剣に精神科医になろうと思った時期がありました。
理由は、簡単です。
‘血を見るのが怖かったから’です。
今の私を知る人は、
『えぇ~???』と驚かれるに違いありません。
毎日、血を見て仕事をしていますから…。
■ ■
私が精神科を諦めた理由も簡単でした。
治らない、
治せない、
患者さんが実に多いからです。
どこの精神病院にも、
人生の大半を病院で過ごしている方がいらっしゃいます。
他の診療科では考えられないことです。
■ ■
大部分の方は、生活保護を受けていらっしゃいます。
すなわち、税金が使われています。
患者さんの中には、医師免許証を持った人もいました。
医師免許証を持っていても、
人生の大半を精神病院で過ごしていました。
そこの病院の治療方針が悪くて治らないのではありません。
ある割合で、どうしても治せない患者さんがいるのです。
悲しいことですが、これが精神医学の限界です。
■ ■
私は、犯罪を犯した人を、精神を理由に無罪にするのには反対です。
無罪にして、精神病院へ入れたとしても社会はよくなりません。
精神病院では、刑務所ほど厳重に患者さんを管理しません。
いや、管理なんてできません。
タバコを吸うのも自由です。
中には、病院で妊娠しちゃう人も出てきます。
他の病棟と比較すると、看護職員の数が少ないのが精神科です。
看護職を増やすと、それだけお金がかかるからです。
国の方針です。
■ ■
精神科勤務の職員には、程度に応じて、
‘危険手当’が支払われる場合があります。
閉鎖病棟で、凶暴性のある患者さんを看護する職員などです。
私が、知っている看護職の方で、
患者から暴行を受けて意識不明の重体となった男性がいます。
残念なことに、後遺障害も残ってしまいました。
精神科勤務は、時に命がけです。
■ ■
医学生は全員精神神経科を履修します。
選択科目ではありません。
実習へ行くと、分厚い辞書のようなカルテを目にします。
何十年も、精神科に入院していた患者さんのカルテです。
そのカルテを見ただけで、精神医療の難しさを痛感できます。
■ ■
私は、司法修習生など、法曹界の方が、
精神神経科に実習に来ているの見たことがありません。
もし、私が間違っていたら、ごめんなさい。
弁護士さんや裁判官、検察官になる方は、
日本の精神医学の状況や精神病院の現実を見るべきだと思います。
どうしたら、日本を安全で住みやすい国にできるか?
‘犯罪を犯した患者’を精神病院に入れるだけでは、
決して、安全な国はできないと思います。
■ ■
形成外科や美容外科も万能ではありません。
私が手術をしても、治せないキズもあります。
私が手術をしても、満足していただけないこともあります。
でも、それは治療前に説明していますし、
納得していただかなくては、手術をお引き受けしていません。
まさか、美容外科に行ったら、
どんな人でも美人になれるとは考えていないと思います。
でも、ひょっとすると、法曹界では?
精神病院に入院したら、
‘犯罪を犯した患者’が治ると思っているのでしょうか?