医学講座
顔面神経再建の思い出
私は札幌医大形成外科の講師を、
平成10年(1998年)から14年(2002年)までの4年間勤めました。
最後は、
医学部長から…
泥足で蹴られて追い出されました。
仲間だと思っていた同僚にも…
見事に裏切られました。
■ ■
残念な4年間でしたが…
医師として貴重な経験もできた4年間でした。
一番の想い出は、
耳鼻科の先生とたくさんの再建手術ができたことです。
英文論文にした…
チンの皮で気管を作る
…という手術もあります。
■ ■
耳鼻科というと…
耳、鼻、のどを診るお医者さんのイメージがあります。
優しい先生が多く…
額帯鏡(がくたいきょう)という…
大きな丸い鏡をつけて、
その真ん中から…
耳や鼻やのどを診てくれるイメージです。
今は高性能のカメラで見てくださるクリニックもあります。
■ ■
耳は、
頭蓋骨とつながっています。
耳鼻科医は脳の一部も診たり、
頭蓋骨の中も手術をします。
私が頼まれたのは…
頭蓋内の顔面神経が…
腫瘍に巻き込まれていて…
切除しなければならないので…
そこに神経移植をしてほしいという内容でした。
■ ■
患者さんは…
まだ若い女性でした。
顔面神経の根っこを…
数センチ切断してしまう手術です。
手術前には正常だった顔が、
手術後には片側がまったく動かなくなります。
神経を切断しなければ…
腫瘍は切除できません。
待ったなしです。
■ ■
神経移植はそれまでにも経験がありましたが、
頭蓋内の移植ははじめてでした。
神経をつなぐ技術には自信がありましたが…
果たして正常に機能するか?わかりません。
患者さんへの説明は、
切断された神経の断端に、
他の神経を移植します。
数ヶ月~1年で回復する見込みです。
…という内容でした。
■ ■
手術は無事に終わりました。
頭蓋内への移植ははじめてでしたが…
神経そのものは正確につなげました。
他の神経を橋渡ししました。
問題は、
その神経を移植した場所です。
骨の真上でした。
血流の悪い場所でした。
皮膚や粘膜だったら移植しても着きません。
■ ■
術後2ヵ月しても…
麻痺した側の顔の表情は…
まったく動きませんでした。
先生、ほんとうに動くようになるのですか…?
もし動かないなら…
早めに他の方法で治した方がいい…
…と言う先生もいらっしゃるようです。
■ ■
患者さんの不安はもっともです。
当時、東大病院形成外科では…
顔面神経麻痺の再建を盛んになさっていました。
患者さんのご希望で…
当時、東大形成外科で助教授をなさっていらした、
朝戸裕貴先生(現、獨協医科大学形成外科教授)にお願いして、
セカンドオピニオンをいただきました。
■ ■
私が紹介状を書いて…
患者さんは東大病院まで行かれました。
朝戸先生のセカンドオピニオンは、
今すぐに再手術をしないで、
もう少し神経の回復を待ってみましょうでした。
私も患者さんも安心して待つことにしました。
■ ■
東大から帰って数ヶ月後でした…
♡先生うごいてきました♡
患者さんの麻痺した顔面が…
わずかに動き出しました。
少しずつですが…
麻痺していた顔面が動くようになりました。
手術後一年もすると、
日常生活で不自由することはなくなりました。
神経移植は回復まで時間がかかります。
患者さんも医師も…
じっと待つ長い時間が必要です。
“顔面神経再建の思い出”へのコメント
コメントをどうぞ
耳鼻科の領域も凄く深いのですね。 来月 長男が耳鼻科で手術をしますが、まだ主治医から詳しい説明親にはないので不安です。 私も 首の手術後 腕が上がらなくなった時期があり 首の第5神経の機能回復のリハビリやら 大学の若い神経回復に熱心な先生のおかげで 一年はかかると言われた麻痺を短期間で 回復、半年後には普通になった経験があるので諦めず待つ事も大事だと思いました。