医療問題

医師引き上げ

 今朝の北海道新聞に、北海道内の病院へ北大・札幌医大・旭川医大の大学病院が、医師派遣を打ち切るという記事が掲載されていました。昨日は、釧路労災病院へ小児科医の派遣を北大が打ち切ったため、旭川医大が「小児科医がいない病院へ産婦人科医を派遣できない」と産婦人科医の派遣を打ち切り、釧路労災病院では小児科と産婦人科が休診になるという記事が掲載されていました。
 派遣を打ち切られる病院は、釧路労災病院の他に、旭川赤十字病院小児科(札幌医大)、市立室蘭総合病院皮膚科(札幌医大)など、いわゆる道内の有名公立病院が含まれているところが今回の‘事件’の特徴です。
 この問題の背景として、2004年4月からはじまった臨床研修制度があります。医師免許取得後2年間は臨床研修を義務づけ、研修医が自由に病院を選ぶ時代になったのです。私たちが卒業した頃は、卒業後に各大学の医局という診療科に就職し、そこで徒弟制度のように先輩から技術や知識を学ぶのが一般的でした。医局の頂点は各診療科の教授で、教授は若い医師を‘教育する’見返りとして、強力な人事権を有していました。
 よく冗談のように、人事異動の前に教授にトイレで会って‘連れション’をした時に、‘○○君、今度キミは○○町立病院へ行ってくれ’と言われて飛ばされたというもっともらしい話が当たり前のように言われていました。人呼んで‘ション便人事’とすら言われていました。私が所属していた北大形成外科では絶対にありませんでしたが、教授の権力がいかに大きかったかという象徴的な言葉です。
 各病院の院長は大学の教授とさえ親密にしておけば、医師の派遣という病院にとって最も重要な人材確保は安心できていたのです。ところが、臨床研修制度がはじまると、医学生は医師臨床研修マッチング協議会という機関に申し込んで、コンピュターにより研修先を決められるようになりました。医学部の6年生になると申し込みます。学生は各病院の給与や待遇を十分に検討して申し込みますので、安月給で重労働おまけに雑用ばかりの大学病院は敬遠されます。
 この制度がはじまってから、各大学は極端な人手不足になりました。地方病院へ派遣する医師はいなくなり、次々と大学へ医師を引き上げています。教授の‘人事権’も権力が低下していると言われています。‘ション便人事’などもってのほかで、今では「○○先生。今度○○総合病院へ主任医長として赴任していただけませんか?」と教授が切り出しても「せっかくですが、○○総合病院は給料が安く時間外手当も出ません。おまけに土曜日も外来があります。私は家庭第一主義ですからお断りさせていただきます」というように人事も簡単に決まらないと聞いています。
 派遣を打ち切られている‘有名公立病院’は、‘給料が同じ都市の他病院より安い’のでも有名でした。私が釧路労災病院に勤務していた頃は、お隣の釧路赤十字病院より年収が100万円単位で安かった記憶があります。私は大学から派遣されていたので、時間外手当がなくても、土日も回診があって休みなく働かされても、ボーナスが日赤病院より少なくても、一生懸命働いていました。今の若い先生には通用しないのかもしれませんね。

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