医学講座

客室乗務員さんの手術

 旅客機の客室乗務員は昔はスチュワーデス、今はキャビン・アテンダント(CA)と呼んでいます。
 契約社員が増えて、待遇は昔ほど良くないようですが、女性に人気がある職業の一つです。男性にとっては一つの憧れで、これは今も昔も変わらないようです。
 実際の勤務は重労働で、国際線になると長時間拘束されます。
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 かなり前のことですが、国際線の客室乗務員をなさっていらっしゃる方からワキガ手術を依頼されたことがありました。
 とても光栄なことですが、正直なところ困りました。まず客の荷物を収納するだけでも、手をかなり上まで上げなくてはなりません。
 狭い厨房で機内食を準備したり、ワゴンにのせて配るにも腕を伸ばします。ワキガ手術をすると、どう考えても2週間以上は無理です。
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 しかも、国際線になると勤務が不規則で、通院もできません。正直なところ最初はお断りしようと思いました。
 しかし彼女の悩みも深刻でした。長時間勤務の国際線では、どんなに‘お手入れ’をして乗務しても、目的地に到着する頃には気になるそうです。
 制服も汗で傷みやすいし、どうしても手術して欲しいと懇願されました。
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 幸い、約1ヵ月の長期休暇が取れたので、手術をお引き受けすることになりました。
 手術は順調に終わり、ご自宅で安静にしていらしたので、キズもキレイに治りました。
 長時間勤務も苦にならなくなり、快適にお仕事に復帰されました。
 数ヵ月後の診察の時です、『先生、臭いがするんです』と言われました。私は耳を疑いました。
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 手術後数ヵ月はまったく気にならなかったそうですが、ある日、長時間の勤務を終える頃に気づいたそうです。
 以前とは比べものにならない位、汗は減り、臭いも通常は気にならないのですが、せっかく手術したのに…と。
 その方は注意深くワキを観察されました。
 臭いが出ていたのは、おっぱいの横に近い、腋毛も生えていないところからでした。
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 形成外科や美容外科の教科書には、ワキガ手術をする範囲は、毛の生え際から1~2㎝と記載されています。
 標準的な範囲は、成書には10×4㎝程度と書かれています(腋臭症の治療、克誠堂出版、p64)。
 臭いが出ていた部位には腋毛がなく、一見したところアポクリン腺はなさそうな部位でしたが、確かにそこから臭いがしました。
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 最初に手術したキズがキレイだったので、また新たにキズができても構いません。と了解をいただきましたので、追加手術をしました。
 そのおっぱいの横の少し窪んだ部分には、少しですがアポクリン腺がありました。
 そのアポクリン腺を切除すると臭いは消失しました。
 それ以来、私はそこまでアポクリン腺を除去するようにしています。
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 私が手術する範囲は、広い方だと10×18㎝にもなります。
 今までの最高は、12×20㎝でした。その方の体重は100㎏を超えていました。
 臭いに対するこだわりは、総合病院の形成外科を受診なさって手術を受ける方と、形成外科・美容外科のクリニックを受診なさる方の要求度の違いかもしれません。
 ただ、経過を診察していて、臭いが残っていると、本人の次に気になるのは執刀医です。私は保険で手術をしても、できる限り臭いをゼロに近づけるよう努力しています。
 形成外科勤務医の先生にも、ちょっとだけ耳を傾けていただければと思います。
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 私は、その臭いがすると教えてくれた方に感謝しています。
 今は手術をする前に、必ずご自身に鏡で手術する範囲を確認していただいています。
 この取り残しが、一般に‘再発’といわれる症状なのだと思います。

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