医学講座
アッカンベーの手術
顔面神経麻痺によるアッカンベーの手術は、通院でできます。目尻を数㎜切って、靭帯(ジンタイ)という組織を引っ張って、骨に固定する手術です。
顔面神経麻痺では表情筋が機能しなくなります。ピーンと張っていた筋肉が弛んで(ユルンデ)しまい、それで下まぶたがアッカンベーになります。
弛んだ筋肉の端のヒモを引っ張って、ピーンと張る手術です。
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重症のヤケドでも目がアッカンベーになります。
私が札幌医大に在職中に、ロシアからジェーニャくんという子供がヤケドの治療にやってきました。全身の大ヤケドでしたが、ロシアで治療できなかったのが顔と手でした。
顔の治療は形成外科が、手の治療は整形外科の石井教授が担当しました。
有名なコンスタンチン君ではありません。コンスタンチン君を治療したのは、旭川赤十字病院にいらっしゃる阿部清秀先生です。
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ヤケドでアッカンベーになるのは、皮膚が焼けて、皮膚が縮み(チヂミ)、まぶたが引っ張られることによります。
ジェーニャ君は上まぶたも下まぶたも、頬もすべて焼けていました。顔の皮膚をすべて貼りかえる大手術でした。
このような手術は、入院施設がある総合病院でなければできません。
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下まぶたの『たるみ』とり手術で、アッカンベーになることがあります。
初心者の先生が手術して、皮膚を取りすぎたり、脂肪を取る時に止血が不十分だったりすることが原因です。
かなりベテランの先生が手術しても、ちょっとしたアッカンベーが気になることがあります。
私が大学病院に勤務していた時に、ある美容外科で手術を受けて、その後、軽度のアッカンベーになり、不眠症になって精神科から紹介された方がいらっしゃいました。
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この方は軽度でしたので、再手術はせずに通院で様子をみました。
また、別のクリニックで手術を受けて、明らかにアッカンベーになった方の修正手術をしたこともあります。
手術を受けたクリニックでは対応できなかったようです。
再手術は難易度の高い手術です。‘簡単’には治らないケースもあります。
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2000年8月のPlastic and Reconstructive Surgery という米国形成外科学会雑誌(106(2):438-53)に、
The evaluation and management of lower eyelid retraction following cosmetic surgery.という論文が出ています。
『美容外科手術後の下眼瞼外反(アッカンベー)の評価と治療法』というタイトルです。
冒頭の文章に、Lower eyelid retraction is a common complication after cosmetic surgery of the lower eyelids. と書いてあります。Yahoo翻訳で訳すと‘下眼瞼撤回は、下眼瞼の美容外科の後の普通の合併症です。’
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Lower eyelid retractionが下眼瞼撤回と訳されていますが、アッカンベーのことです。医学用語では下眼瞼外反と訳します。
要するに、アッカンベーになるのは、下まぶたの美容外科手術ではcommon(共通の、普通の、ありふれた)complication(合併症)ですよという意味です。
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美容外科の宣伝やホームページでは、手術は簡単ですぐに治ります。お化粧すれば、翌日からでも仕事ができます。なんて平気で書いてあります。
アッカンベーになるなんて書いたら、お客さんが来なくなってしまいます。
私は、起こり得る合併症や手術後のトラブルについてもご説明しています。
手術は飛行機と同じで安全第一です。慎重すぎて後悔することはありません。