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医師とストレス
自分で言うのも変ですが、医師はストレスの多い仕事です。
ある開業医の奥様がおっしゃいました。『主人はストレスが多く、ちょっとでも触ると破裂しそうな風船のようです』と。
これを言ったのは、私の家内ではありません。逆に、少しでもこの先生の奥さんのように、私の立場を理解してくれたらなぁ~と思っています。
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医師にストレスがかかるのは、人間の生命という、世の中で、何よりも大切なものに係わる職業だからだと思います。
どんなに医学が進歩しても、治せる病気はほんの一部で、医学はその病気といかに上手に付き合うかを指南するだけです。
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私が忘れられない患者様の一人に、若くして悪性腫瘍で亡くなった女性がいます。
その方は、ニキビのようなできものができ、大きくなってきたので、心配であるクリニックへ行ったそうです。
悪性の疑いがあるから、手術をしなさい。と言われました。その先生が怖くて、母親にも言えず、お父さんのお墓へ行って泣いたりしていて、しばらく時間が経ってしまいました。
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私が勤務していた、市立札幌病院へいらした時は、すでに鶉卵(ジュンラン、ウズラ卵)くらいの大きさになっていました。
残念なことに、初診時に胸部写真で肺転移が見つかりました。悪性腫瘍の専門家や呼吸器科医と何度も相談して、手術をしましたが、肺転移は進行しました。
家族や他科の先生とも相談し、本人に病名は告知せず、抗癌剤による治療をしました。
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残念なことに、まだ20歳台半ばで、その方は亡くなってしまいました。
今でもその方のお母様から、たまにお便りをいただきます。
美人で、明るく、さわやかで、声がきれいな女性でした。学生時代はコーラスをなさっていらしたそうです。
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私が形成外科を選んだ理由の一つは、形成外科では医師の技術一つで、どんなキズでも治せると考えたからです。
大学教授でも、治せないキズがあることは、形成外科医になってわかりました。
ケロイド体質という体質があります。遺伝することが多いのですが、どんなに丁寧に手術をしてもキズが盛り上がります。
ケロイド体質でなくても、キズがキレイに治らないこともあります。
また、術者がどんなに丁寧に手術をしても、手術後の安静を守っていただかなくてはキズはキレイになりません。
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医師の力なんて無力なものです。自分がどうしても助けたいと願った方が亡くなってしまったりするとガックリします。
手術で、どんな人でもキレイにできるなんて思っているのは、経験が少ない証拠です。
長年やっていると、どんなに頑張っても力が及ばないこともあります。
相性もあります。よくなったと思っても、本人が満足してくれなければ、何の役にも立ちません。
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私のように開業医になると、医業以外のことでも苦労します。
職員の採用、経営、労務管理などなど、ストレスの原因になることがたくさんあります。
毎日、たくさんのストレスと闘って生きていかなくてはなりません。
私は、お坊ちゃん育ちではありませんが、ストレスには弱い方です。安倍さんのように、すぐにおなかを壊します。
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ストレスに晒されながらも、私が何とかやっていけるのは、大部分の方には、手術で満足していただいているからです。
他院でうまく治らなかった方を‘修正’するのは、技術的には難しいことです。再手術が適応になると判断できれば、リスクもご説明した上で、手術をお引き受けすることもあります。
難しいと思った手術で、予想以上の効果が出た時はうれしいものです。
美容外科医は決して楽な商売でありません。たくさんのストレスと闘いながら、生計を立てています。