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札幌の救急医療

 メディカルトリビューンという医師向けの新聞に札幌市の救命救急について載っていました。
 札幌市の心肺停止症例の蘇生率が日本一で、極めて高いことが掲載されていました。
 簡単に言うと、札幌で突然心臓が止まって、救急車で運ばれたら、日本で一番助かる率が高いということです。
 これは実に素晴らしいことです。‘美しい国’よりも‘安心して暮らせる街’が大切です。サミットで諸外国の首脳がいらして突然死しそうになっても、東京より札幌の方が助かる率が高いのです。
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 AEDという止まった心臓を動かす器械が、駅や空港、航空機に備えられていることはご存知だと思います。
 AED(自動体外式除細動器)とは、心臓がけいれんし血液を流すポンプ機能を失った状態(心室細動)になった心臓に、電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器です。
 心室細動とは、心臓の筋肉がけいれん状態になり、全身に血液を送るポンプ機能を失った状態になる致死性不整脈の一つです。 心室細動の唯一の治療方法が、除細動器(AED)で電気ショックを与えることです。
 2004年7月より医療従事者ではない一般市民でもAEDを使用できるようになり、空港、駅、スポーツクラブ、学校、公共施設、企業等人が多く集まるところを中心に設置されています。
 確かにAEDでも動く心臓はあります。ただ、すべての心肺停止がAEDで動くのではありません。
 札幌だけAEDが多いので助かる率が高いのではありません。
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 札幌の蘇生率が高く、元気で社会復帰できる率が高いのは、市立札幌病院救命救急センターと札幌市消防局の救急隊の協力のおかげです。
 平成7年に市立札幌病院が現在地の桑園に移転する際に、隣接して消防局の救急隊も移転しました。当時の桂信雄市長の英断です。
 札幌市の全救急隊員のうち、約7割を救急救命士が占めています。その結果、救急現場で気道確保ができる率が90%以上、静脈路確保率が43%と他都市に比べて優れています。病院と救急隊が力を合わせているからです。
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 消防本部から要請があると、市立札幌病院救命救急センターから医師が同乗して、ドクターカーが出動します。
 ドクターカーには救急の医師が同乗しているため、現場に着いたその瞬間から治療が始まります。
 直近の救急隊から救急救命士が現場へ駆けつけるまで平均6分。救命士が蘇生処置を行っている現場へドクターカーが着くまで平均20分です。
 2台の救急車が出動して、現場で救命処置が始まります。救急医は市立札幌病院と連絡を取り、救命救急センターで行う処置の準備を指示します。
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 ここからが札幌方式のすごいところです。
 一般に心臓と呼吸が止まった人には、気管内挿管といって口から管を入れて人工呼吸を始めます。これで酸素が入り肺が膨らみます。
 心臓は動かないので、胸をグイグイと押して心臓マッサージをします。TVなんかでやっている、胸の上に乗っかって手で押しているヤツです。とても疲れます。疲れる割に心臓のポンプ作用は弱く、脳に血液は行きません。心臓マッサージでは脳血流の10~20%しか保障されず、脳はどんどん死んでしまいます。心臓だけ動いて体は温かくなっても脳死になってしまいます。
 いくら頑張っても、脳死の患者さんを作るだけというのが真面目な救急医のジレンマでした。
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 2000年4月から、市立札幌病院ではドクターカーから、人工心肺という心臓の代わりに血液を送る装置を指示するシステムを始めました。
 正式には経皮的心肺補助(PCPS)と言います。心臓が止まっている人の血管に管を刺して、心臓の代わりに脳に血液を送るシステムです。一式約50万円と高価ですが、これで一人の人の命を救えるなら安いものです。
 この装置は準備に時間がかかるため、ドクターカーから『PCPSを準備してください』と指令を出すと、病院でスタッフが準備して救急車の到着を待ちます。
 こうして、脳が死んでしまうのを防ぐことができるため、突然死しそうになっても助かって社会復帰できる率が上がったのです。
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 市立札幌病院救命救急センターの部長は牧瀬博(マキセヒロシ)先生です。私が昭和55年に北大病院で研修を始めた時には麻酔科医でした。
 もの静かで真面目な先生です。私の恩師である、吉田哲憲先生が院長で、牧瀬先生が率いる(ヒキイル)救命救急センターが日本一になってとても嬉しいです。札幌市民でよかったと思います。札幌は日本一安心できる街です。

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