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専門医10症例
日本形成外科学会専門医でも手術が下手な先生がいることを書きました。これは専門医認定制度をどんなに厳しくしても必ず出てくる問題です。現在の専門医試験で難関なのは、10症例(ジュッショウレイ)と呼ぶ、自身が術者として手術を行った10症例についての所定の病歴要約です。
4年間の形成外科研修中に、自分自身が術者として手術を担当した患者様の術前・術中・術後の写真、詳細な病歴、手術記録などを学会に提出し審査を受けます。
手術の腕前を写真で判定するのが、形成外科専門医試験の特徴です。
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幸い、私の頃は個人情報保護法も今ほど厳しくはありませんでした。大学病院という名前なので、若い先生が手術を担当しても不思議には思われませんでした。
私が「今度手術を担当させていただくことになった本間です」と申し上げても「よろしくお願いします」と言われた時代でした。
私が手術を担当する時でも、必ず上の先生がついて手術をしていました。これは今でも同じだと思います。ただ、大学によっては、あまり経験がない指導医の先生がいることも事実です。
手術の同意をいただく時に、『明日の手術は、○○先生が専門医を取得するために、はじめて執刀させていただきます』と正直に言って、同意してくれる患者様がいらっしゃるとは到底思えません。
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熱傷の手術でしたら、研修医も含めて大勢で手術をすることもあります。
問題なのは唇顎口蓋裂など先天異常の手術です。出生数の減少と医科大学の増加で、形成外科医一人が一生の間に手術する唇顎口蓋裂の数は減少しています。
生後3ヵ月の赤ちゃんの手術を、専門医試験のために研修医に任せてくれる親などいないと思います。
赤ちゃんの写真を専門医試験の書類に使わせていただく同意も取れないと思います。
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私がこのホームページで使わせていただいている写真は、すべて患者様の同意を得て使わせていただいています。
大学病院や認定施設で、どのように同意をいただいて写真を使わせていただいているかわかりません。よほど患者様との信頼関係がなければ難しいと思います。
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唇顎口蓋裂のような手術は、大学の講師クラス以上の先生がするのが一般的になっています。
研修医は手術に入って、術者の助手をするのが精一杯で、形成外科研修3年目とか4年目に任せられる手術ではありません。専門医試験に出す10症例は、先輩が手術して、自らはせいぜい抜糸を担当したというのが正直なところではないかと思います。
専門医試験で写真判定を受けた症例は、受験者本人が自ら手術したのではなく、上手な先輩が手術したのを‘いただいた’可能性が否定できないのです。こうして‘専門医’になった先生は誰も見分けがつきません。
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私も最初から上手にできたのではありません。先輩に教えてもらって、ドキドキしながら手術をして、少しずつ上達したのです。
私が幸せだったのは、丁寧で上手な先輩が何人もいて、実に家族的な雰囲気の医局で育ったことです。
外科医は職人です。腕のよい師匠について、お客様がたくさんいらっしゃる職場で修行をしないと上手になりません。
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医師選びは難しいと思います。専門医は一つの指標ですが、絶対ではありません。先生との相性もあります。
手術を受ける時は、その先生と何度か会って話してみるとか、症例写真を見て判断するとか、自分自身で‘この人なら’と思う先生を見つけることです。
私は人の性格と声と字はなかなか変わらないと思います。自己責任ですから慎重に先生を選んでください。