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解剖の承諾

 形成外科では患者様が亡くなることはマレです。北大病院形成外科でも年に数人でした。
 北大形成外科は、他大学の形成外科と比較して、皮膚悪性腫瘍(皮膚ガン)の治療を多くしていました。そのため、皮膚ガンで亡くなる方の割合が多かったと記憶しています。あと、私が医師になった頃は、重症の熱傷(ヤケド)で亡くなる方もいらっしゃいました。
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 大学病院で亡くなると、全員解剖するわけではありませんが、ガンの患者様などには解剖をお願いすることがありました。
 病理解剖という解剖です。亡くなってから、死因を確かめたり、病巣の拡大程度、転移の程度などを調べるために行います。また、摘出した臓器から細胞をとって、ガンの研究に使うこともあります。
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 病理解剖だけは、生前に『もし亡くなったら解剖してもよろしいでしょうか?』という同意を本人からいただいてはいませんでした。おそらく、今も本人からはいただいていないと思います。
 死期が迫った患者様に、『あと一週間であなたは亡くなります。死んだ後に解剖してもよろしいでしょうか?』なんてことは、世界中どこへ行って言わないと思います。例外は医学部の現役教授です。教授が亡くなった時は、無条件で解剖するという不文律がありました。
 病理解剖は『ご臨終です』と申し上げた後で、ご家族にお願いします。
 主治医がいれば、主治医がしますが、出張などで不在の時は、病棟医長がすることもありました。
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  悲しんでいらっしゃるご家族に、解剖させてくださいと言うのは辛いことです。
 入院中に、よほどしっかり治療していなければ、解剖の承諾はいただけません。医療不信があって、解剖して死因を確かめたい時は別ですが、大部分のご家族は、死んでまで痛い思いをさせたくないとお考えになります。
 解剖の承諾をいただくこと=(イコール)家族からの信頼を得ていることになります。
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 厚生労働省が臨床研修指定病院を指定する要件として、解剖の割合を定めていました。
 つまり、年間に亡くなる患者様のうち、病理解剖をさせていただく割合(剖検率ボウケンリツ)が高くないと、研修指定病院にはなれません。
 よい病院を選ぶ基準として、この剖検率が高い病院を選ぶのは賢明な方法です。
 毎日の治療をしっかりしていないと、決して解剖は引き受けていただけません。また、医師・看護師・医療スタッフの対応がよくないと同意はいただけません。
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 政治家は選挙で国民から審判されます。医療従事者は、患者様が亡くなって、解剖のお願いをした時に、患者様のご家族から審判を受けます。
 昨日の臓器提供の同意と同じように、日常診療に対する評価が、患者様やご家族からの‘同意’という形で評価されます。
 研修医の中には、朝『おはようございます』もきちんと言えない人もいます。まず、きちんと挨拶ができて、相手の目を見て話せるようになることが臨床研修の第一歩です。
 私は自分を治療してくれた先生がベストを尽くしてくれれば、たとえ助からなくても、解剖でも臓器提供でもいたします。もし、いい加減な治療をして助からなかった時は、化けて出て来て文句を言うと思います。

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