院長の休日
おやじのせなか_桜木紫乃さん
平成25年9月26日、朝日新聞朝刊の記事です。
(おやじのせなか)桜木紫乃さん
娘に相談、ホテル屋の「同志」
中学3年の時、1億円の借金をして父がラブホテルを始めました。建築業者とリース会社が結託してまちの山師に声をかけていたのに乗った。ホテル内の事務所に家族で引っ越し、客室の掃除などを手伝いながら、父が決めた高校に通いました。
父はもともと魚屋の次男坊に生まれ、15歳で床屋に奉公に出された。ようやく腕に自信がついた頃、実家を継ぐはずだった長男が事故で亡くなりました。それまで気楽な立場だったのに、突然「長男」としての重圧がかかった。それが多分、一旗揚げなきゃという気持ちにつながったんじゃないでしょうか。
ホテルを建てる時、「こんな部屋を作りたいんだけど、どうだ」と、母ではなく私に相談するんです。同志のように感じていたのかもしれません。事あるごとに「ばかやろう」「このやろう」。みんな敵みたいな生き方をしてきた人ですから。
趣味は釣りとギャンブル。本なんか読んだことがないのに、若い頃、どうせなら長いものをと「砂の器」を読み始めたのですが、最初の方で挫折。私のお話には情けなくてだらしない男が出てくるけれど、父が見せてくれた一面でもあるんです。
父はよく私を釣りに連れていってくれました。明日の米にも事欠くなか、父が釣った魚は貴重なおかずでしたが、連日イクラ、シャケ、シャケ、イクラ。「たまには肉が食べたい」と言うと平手打ちが飛んできました。理屈っぽかった私は「男の逃げ道をふさぐようなものの言い方はするな」と怒られていました。「おまえは俺に似て、何をしでかすかわからん。何をやってもいいが、火付けと泥棒だけはするな」とも。
ラブホテルを舞台にしたお話を書き、それが評価されたことで、親の生き方が肯定できた気がします。直木賞の授賞式には母と一緒に来てくれた。おかしな時間を娘に過ごさせた責任を取りにきたつもりだったのかもしれません。硬い表情で座っていましたが、私にはそれで十分だった。「ホテル屋の娘に生まれてよかった」と言えてよかったです。(芳垣文子)
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さくらぎ・しの 北海道釧路市出身、道内在住。2007年「氷平線」で作家デビュー。直木賞受賞作「ホテルローヤル」は発行50万部を突破。最新作は釧路が舞台の「無垢(むく)の領域」。48歳。
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北海道が誇る直木賞作家の桜木紫乃さん。
おやじの一人として…
ずっと気になっていました。
娘はお父さんをどう思っていたのだろう?
今日の朝日新聞を読んで安心しました。
とても仲良しの親子です。
鮭を釣るのはとても難しいです。
素人には釣れません。
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連日イクラ、シャケ、シャケ、イクラ
ぜいたくなご馳走です。
親の生き方が肯定できた気がします。
直木賞の授賞式には母と一緒に来てくれた。
おかしな時間を娘に過ごさせた責任を取りにきたつもりだったのかもしれません。
硬い表情で座っていましたが、私にはそれで十分だった。
「ホテル屋の娘に生まれてよかった」と言えてよかったです。
これからもご活躍を祈念しています。
おやじの一人としてほっとしました。