医学講座
こんな医者になって
平成26年11月15日、朝日新聞夕刊の記事です。
こんな医者になって
心臓病の13歳、弟に贈る8カ条
倫太郎君は、左心室と右心室が分かれていない「フォンタン術後症候群(房室交差)」を抱える。1万4千人に1人の難病で、手術を重ねたが、今も腸からたんぱくが漏れる合併症で点滴が欠かせない。2歳の時に不整脈で心肺停止に陥るなど、生死の境をさまよってきた。
■「お兄ちゃんを治す」
免疫力が落ちているため運動や過労は禁物だが、学校には酸素吸入器を付けて通い続ける。今は午前中だけ町立箕輪中学校の普通学級で学び、文化祭では弁論大会で「命の尊さ」について語った。
今年初め、弟の恵次郎君が人体図鑑を眺めて「お兄ちゃんを治したい」と言い始めた。それを聞いた倫太郎君は7月、弟を励まそうと、倫太郎君が思う理想の医者像をパソコンで一気に書き上げた。
■それぞれに体験談
良い医者の心得は、全部で8カ条からなる。それぞれに倫太郎君の体験談が付く。たとえば「検査や治療は出来る限り患者さんの生活に合わせてやるべきだ」には、小5の時の体験をつづった。
「H先生にエコー検査に呼ばれた。だが、その時H先生は『もうすぐお昼ごはんだね。メニューはうどんだし、のびると美味(おい)しくないから倫ちゃんがうどんを食べ終えたらエコーをするよ』と言ってくれた」
「患者さんは、誰もが自分の受ける治療や検査などに、不安を抱えている。しっかり、分かりやすく説明してあげよう」には「U先生は僕が入れるかもしれない心臓ペースメーカーを2種類も持って来て、僕に説明してくれた。わざわざ本物を見せて分かりやすく。僕はU先生のおかげで、機械を入れる不安から抜け出すことができた」。
主治医や看護師の評判は上々だ。長野県立こども病院の循環器小児科部長、瀧聞浄宏(たきぎくきよひろ)さんは「医者のことをよく見ている。ハッとさせられた」。長年倫太郎君をみてきた同病院循環器センター長の安河内聡(やすこうちさとし)さんは「彼の文章には生きることへの感謝と真摯(しんし)な姿勢があふれている。かみしめて読んでほしい」と言う。
(阿久沢悦子)
倫太郎君の「理想の医者」8カ条
1.患者さんの家族、趣味など、患者さんの生活全体を見て接しよう。
2.患者さんは、誰もが自分の受ける治療や検査などに、不安を抱えている。しっかり、分かりやすく説明してあげよう。
3.患者さんは、いつ苦しみだすか分からない。大切なのは、その時に、君が患者さんのために、とっさに体が動かせるかだ。
4.入院している患者さんにも、自分の生活がある。検査や治療は出来る限り患者さんの生活にに合わせてやるべきだ。
5.入院している患者さんにとって、ベッドは我が家のようなものだ。採血や問診に行く時は、人の家にいくような感じで行こう。
6.患者や患者の家族は、手術や検査の結果を心待ちにしている。終わったらすぐにすぐに知らせてあげよう。
7.患者さんとの関係は、治療が終わればおしまいという訳ではない。
8.医師はどんな状況でも諦めてはならない。思わぬ治療法があるかもしれないし、悪い状態は一時的なものかもしれないからだ。医師が絶望的と思っても、患者さんやや家族にとっては違うかもしれない。
■ ■
実にいい文章だと感じました。
13歳の少年が書いたとは思えません。
この8カ条は、
倫太郎くんの主治医がしてくれてうれしかったこと、
してくれなくて残念だったこと、
そのどちらも含まれていると思いました。
医療従事者として考えさせられました。
■ ■
私は医療現場の医師として、
倫太郎くんの8ヶ条を、
全国の医学部教官や、
医学生に読んでいただきたいです。
倫太郎くんの幸せを祈っています。
ありがとうございました。