医学講座
ドナーカード
私はドナーカードを持っています。もし私が脳死になったり心臓が停止して死亡した後は私の組織すべてを提供しますという署名を1998年4月2日にして家内と長女の署名もしてあります。実は医師になって病院に勤務した頃は自分の組織を提供することには抵抗がありました。
1989年4月から市立札幌病院に勤務し毎日救命救急センターへ行って外傷や熱傷の患者さんを救急の先生と一緒に治療していました。私はそこではじめて脳死の患者さんを診察しました。いままで漠然としか脳死を知りませんでしたが救命救急の現場で脳死とはどのような状態であるかを知りました。
市立札幌病院には救命救急センターのほかに腎センターと腎移植科がありました。腎移植科の平野先生は献身的に腎移植に取り組んでいらっしゃいました。市立札幌病院ではたくさんの患者さんが人工透析を受け腎移植を希望する方もたくさん待っていらっしゃいました。ある日、腎バンクの登録希望者を募集していたので、私はすぐに腎バンクに登録しました。その後、臓器移植法が整備され臓器提供意思表示カードを医師会でもらったので腎臓提供カードから、腎臓以外の組織もすべて提供できる臓器提供意思表示カードに切り替えたのが1998年でした。私は自分の死後にもし自分の臓器が役に立つなら喜んで提供します。
最近、病気の腎臓を移植した先生のことが問題になっています。家内は『取らなくてもよい腎臓をとって移植したんじゃないの!』と怒っています。私はもし自分の腎臓が病気でそれを摘出して他人の役に立つなら喜んで提供します。腎臓は部分的に切除するより全摘出のほうがリスクが少ない場合もあると思いますし、一部で報道されているように医師が自分の功名心のために腎臓移植をするとは到底考えられないからです。毎日、透析を受けて腎移植ができるのを待っている人を見れば誰でも助けてあげたいと思います。今の日本に必要なのは、もう少し臓器移植を円滑に進めることができるシステムです。お金持ちだけが中国へ行って死刑囚の腎臓を移植してもらう方がよほど問題だと思います。