医学講座

熟慮断行

 平成25年5月26日、朝日新聞朝刊に出ていた、
 キャノン株式会社の広告です。
 熟慮断行
 絶対にうまくいくと確信するまで考え抜く
 父の言葉をかみしめたアメリカでの社長時代
 終身雇用や家族的経営といった日本の企業文化を大切にしながら、徹底した合理主我でキャノンを日本有数の高収益企業にした御手洗冨士夫さん。アメリカの一流経済誌『ビジネス・ウイーク』から「世界のトップ経営者25人」に選ばれ、経団連会長としても活躍。日本を代表する経営者だ。
 そんな御手洗さんの座右の銘は「熟慮断行」。じっくり考え抜いたうえで、決断したら信念をもって実行する―――。日米あわせて30年以上にわたって企業トップを務めてきた御手洗さんの人生を象徴するような言葉だ。
 「学生時代、外科医だった父から聞いた言葉です。よく診察し、慎重に治療法を検討したうえで、いったんメスをもったら悩まず、速やかに執刀する。そんな外科医の心得として、恩師から教わった言葉だそうです」
 御手洗さんは1966年に渡米し、79年にニユーヨークの販売会社キャノンUSAの社長に就任する。毎日、様々な決裁をするうちに、この言葉の意味を深くかみしめるようになった。
 「社長の仕事は決断することに尽きます。社長が決めないことには会社は動きません。大勢の社員の人生を左右することになるわけですから、何かを決めるときはあらゆる角度から調査をし、何度も徹底的に考え抜きます。とことん考え続けているうちに、やがて絶対にうまくいくという確信が生まれてきます。そうなったら、どんな抵抗があってもやり遂げる。それこそがトップの役割であり、責任です」
 個人の努力や工夫で効率が上がるセル方式
 御手洗さんは95年に6代目社長に就任すると、パソコンや液晶ディスプレーなどの不採算事業からの撤退、縦割りの弊害が現れていた事業部制の見直しなど、社内に抵抗があるなか構造改革を断行した。これらは89年にアメリカから帰り、社内を客観的に見るなかで考え続けてきたことでもあった。すべての工場をベルトコンベヤーからセル方式に転換したことも、大きな決断だった。
 「ベルトコンベヤーのスピードは一定なので、個人がどんなに頑張っても生産効率は上がりません。ところが少人数のチームが円陣になり手渡しで部品を組み立てていくセル方式だと、個人が習熟するにつれてスピードが上がり、人数も減らしていけます。一人ひとりの努力や工夫で、生産性を上げることができるんです」
 しかし長年、続けてきたベルトコンベヤーーから、成功する保証のないセル方式に変えることには生産現場の抵抗も大きかった。他社の工場を見てセル方式のメリットを確信していた御手洗さんは、工場を自ら歩き、粘り強く説得を続けた。「社長がそこまでいうなら」と抵抗していた工場長もついには折れる。やがて全工場がセル方式を導入し、大きな生産効率の向上につながった。
 「熟慮断行」といっても、時間をかけて考えられる案件ばかりではない。2010年、キャノンは欧州最大のプリンターメーカーであるオランダのオセ社を買収したが、企業買収ではスピードも重要だ。
 「調査に十分に時間をかけられないこともあるし、不安要素を100%払拭することはできません。それでも最後は腹をくくるしかない。オセの買収では約1000億円規模の投資となり、失敗は絶対に許されませんでした。幸いうまくいってほっとしていますが、ここ最近で一番苦しんだ決断でした」
 その重圧は、経験したものにしか分からないだろう。最後に、御手洗さんが考えるりーダーの条件を聞いた。
 「トップによって大勢の人生が左右されるわけですから、何より私心がないこと。まわりの人を大事にし、自己犠牲をはらえる人でなくてはなりません。経営で一番大事なのはバランスです。ものごとを俯瞰的(ふかんてき)に見られて、会社全体にとって何か一番良いのかを見極める力を持っていること。最後に若く、健康であること。ある程度の期間、同じ人がりーダーシップを発揮しないことには、組織改革や大きな仕事はできません」
 御手洗冨士夫みたらいふじお
 キャノン株式会社代表取締役会長兼社長CEO
 1935年大分県生まれ。中央大学法学部卒。61年にキャノンカメラ(現キャノン)に入社。66年から89年まで米国に勤務し、キャノンUSA社長を10年務める。95年に本社の社長に就任。2006年、会長となり、日本経団連会長に就任。2012年より現職。
      ■         ■
 御手洗社長のお父様は、
 北大医学部3期卒の御手洗毅先生です。
 北大医学部同窓会名簿には…
 (婦)と婦人科がご専門と書かれていました。
 北大医学部3期は昭和3年卒業。
 同期には三上二郎北大医学部第一外科名誉教授のお名前があります。
      ■         ■
 このキャノンの広告に目がとまったのは、
 よく診察し
 慎重に治療法を検討したうえで
 いったんメスをもったら悩まず
 速やかに執刀する
 そんな外科医の心得として
 恩師から教わった言葉だそうです
 …というお言葉です。
      ■         ■
 御手洗社長のお父様がどこで教わったかわかりませんが、
 90年近く経った現在でも…
 外科医にとってはとても意義深い言葉です。
 救急医や麻酔科医にも必要です。
 瞬時の的確な判断が患者さんを救います。
 医学教育の現場で…
 ぜひ普及させたい名言だと思います。
 キャノンの御手洗冨士夫様、
 いい広告をありがとうございました。

“熟慮断行”へのコメント

  1. なっちゅん より:

    石橋を叩いて渡る…と言われた性格なので、外科医には向かないかも。(そんな頭も器用さも持ち合わせてないですが)
    いい言葉ですね。
    素人にも響きます。

  2. さくらんぼ より:

    好きな四字熟語で初めて聞いた言葉ですが、外科医の方々にはなるほどと思うような言葉ですね。夕方昭和3年生まれのお義母さんから電話があり『死にそうだ』 と ビールを飲んだ主人を助手席に乗せ、行ってみたら一人暮らしの寂しさからのただの電話で 主人がごはんを食べさせ、大量のごみのお土産と共に今帰りました。

  3. なっちゅん より:

    いや、石橋を叩いてでも渡るの…の方が正解ですよね?
    あー国文学科卒業を、父が嘆くわけが解ります。

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