医学講座
第21回日本形成外科学会基礎学術集会(福島)④
東北の福島で開催された、
第21回日本形成外科学会基礎学術集会はとても有意義でした。
私の満足度が高い理由は、
臨床医に役立つ基礎学術集会
…だったからです。
最近の若い先生の研究は…
発表を聞いても専門的すぎて理解できません。
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あの塩谷先生ですら…
ブログで
最近は基礎研究はほとんど全てが分子生物学で、
なかなかついていけない。
これは年のせいだけではなさそうだ。
…と書かれていました。
(アンチエイジングブログ2012年10月4日より引用させていただきました。)
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分子生物学は時代の最先端です。
科学研究費もたくさんいただけそうですし、
投稿論文のインパクトファクターは高そうです。
…でも…
発表を聞いて理解できるのは…
その研究をしている限られた形成外科医だけです。
私たちおじさん世代にはちんぷんかんぷんです。
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上田和毅会長が企画された、
第21回基礎学術集会は…
臨床に役に立つ基礎が満載でした。
他の先生たちも…
福島へ来てよかった!
…と話されていました。
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今日の院長日記では、
ランチョンセミナー4
顔面神経麻痺のリハビリとボツリヌス治療
帝京大学 リハビリテーション科
栢森良二( かやもり りょうじ)先生のお話しをご紹介します。
かやもり先生は…
上田先生と仲良しの先生です。
上田先生が手術をなさった…
顔面神経麻痺の患者さんのリハビリを担当されています。
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【講演の要点です】
①顔面神経麻痺になったらできるだけ早く専門医のリハビリを受ける。
②適切なリハビリを受けると回復が良好。
③マッサージは有効。
④百面相のように表情筋を使うことはしない。
⑤専門医にボトックス治療を受ける(保険適応)。
顔面神経麻痺が起きたらすぐに読む本
ISBN:978-4-9904552-1-7
…に詳しく書かれています。
一般の方には横山歯科医院ブログ情報サイトに
…わかりやすく書いてあります。
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以下は医師向けの講演抄録です。
顔面神経麻痺のリハビリとボツリヌス治療
帝京大学医学部 リハビリテーション科教授
栢森 良二 先生
上下肢損傷の効果的な理学療法は,随意的なあるいは低周波による筋収縮を行うことである。しかし顔面神経損傷ではこの方法を用いると,逆に病的共同運動や顔面拘縮などいわゆる後遺症である機能異常を呈することが多い。
1.顔面神経の特殊性と表情筋の役割
顔面神経には上下肢のような神経束構造は欠落しており, 1本の神経幹構造の中に4,000本あまりの神経線維が密接している。23個の表情筋には筋紡錘が欠落しており,腱反射はない。表情筋の役割は,基本的に眼,鼻,口,耳など開口部を反射的に閉鎖する生体防衛「びっくり」反射を担っている。次いで,感情を表出することである。顔面神経麻痺からの回復では,できるだけ早く開口部を閉鎖することである。この観点では,病的共同運動や顔面拘縮は合目的性な回復である。しかし審美性の観点からは,この回復を止め,表情の対称性を維持することが大切であり,この点の成否をもって後遺症の有無といっている。
2.神経変性の分類
上下肢損傷では脱髄か軸索変性の二大別で機能予後は決めることができる。これに対して顔面神経では軸索変性をさらに軸索断裂か神経断裂と細分化して,脱髄と合わせた3つの神経変性に分類する必要があり,これはSeddon分類になる。軸索断裂と神経断裂の相違は,神経内膜の断裂の有無である。軸索断裂線維は内膜断裂がないために迷入再生は起こらない。病態は血行不全にともなう遡行変性で遠位部からの近位部に向かう変性(dying back)である。顔面神経麻痺発症から2~3ヵ月で完治する症例タイプである。神経断裂線維は損傷部から遠位部に向かうワーラー変性が起こり,内膜断裂があるために迷入再生が生じる。このタイプでは3ヵ月では完治せず,これ以降に表情筋に到達する神経線維は神経断裂や迷入再生線維であり,病的共同運動が進行性に出現することになる。
3.機能予後診断
経験的に顔面神経線維の量的損傷が質的損傷を反映している。すべての神経幹が断裂して端端吻合を行うと約60%の線維はもとの支配表情筋を支配し,迷入再生線維は40%の重症度である。顔面神経麻痺で健側の複合筋活動電位(CMAP)と患側CMAPの振幅の大きさを比べて(electroneurogram:ENoG値)40%以上あると神経断裂線維はないと診断し,40%以下の症例では(40-ENoG)%神経断裂線維があると機能診断する。
4.病的共同運動の治療
発症からの予防に勝る治療法はない。しかし神経断裂線維が多い症例では,発症から4ヵ月以降に,迷入再生に伴う病的共同運動が増悪し,8~10ヵ月でピークに達することが多い。一旦形成された迷入再生は半永久的であり,治癒不能である。これに対して,臨床症状である病的共同運動は,随意運動を司る運動皮質による運動学習によって変調可能である。
ボツリヌス治療は機能異常がある程度固定する発症1年以降に実施する。1ヵ所の施注単位はボトックスRで0.5~1.0単位ほどにして,施注箇所数を増減することで効果を調節する。ボトックスR施注後の軽い機能不全に対して神経筋再訓練(neuromuscular retraining)による適切な表情運動パターンを再学習する。粗大運動の禁止,頻回の表情筋伸張,眼瞼挙筋による開瞼運動,健側口角引っ張りによる患側偏位予防を行い,ボトックス効果を延長させる。必要に応じて4~6ヵ月後にボトックスを再施注し運動コントロールを再学習する。
5.運動皮質の再構築
神経筋再学習が最も重要な局面は,顔面神経―舌下神経吻合術,咬筋支配枝―頬骨枝吻合術,交叉顔面神経移植術などのリハビリである。これらは末梢レベルの手術であるが,舌下運動皮質,三叉神経運動皮質,顔面運動皮質の再構築が必要で,その原則は“use dependent plasticity(使用依存可塑性)”あるいは“use it or lose it”原則である。