医学講座
鹿野 恒 先生
昨日の日記に市立札幌病院救命救急センターの鹿野先生のことを書きました。
気になって、Googleで鹿野先生を検索してみました。
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平成18年12月に開催された、第25回日本蘇生学会の抄録が見つかりました。抄録(ショウロク)というのは、学会の前に、今度の学会ではこういう内容で発表します、と発表内容がわかるように提出する原稿のことです。学会に参加する人は、抄録集を読んで、この発表を聴こうと決めるのです。
以下は鹿野先生の発表タイトルと抄録の一部です。
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救急医療終末期において、再び「蘇生」への医療を考える
-主治医にしかできない臓器・組織提供の選択肢提示-
市立札幌病院 救命救急センター
鹿野 恒
救急集中治療領域における終末期医療のなかで、どんなに懸命に治療しても救命不能な患者は必ず存在する。それは救急医療の限界であり、救急医にとって敗北の瞬間でもある。
しかし、そのような患者とその家族を前にして、私たち救急医は何もできないのであろうか? そして患者の意思や家族の希望を見過ごしてはいないであろうか?
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【対象・方法】2004 年1 月より2006 年3 月までに、14 例の脳死が疑われる患者に対して臨床的脳死診断を行ない、全例に対して終末期の選択肢提示による意思表示カードの確認および患者家族の臓器提供の意思確認を行なった。
【結果】14 例の家族のうち13 例の家族において臓器提供への関心が認められ、10 例の家族が移植コーディネーターと面談を行なった。その全て家族が心停止後の臓器・組織提供を承諾され、腎臓19 件、膵臓1 件、心臓弁・大血管5 件、角膜12 件、皮膚4件の臓器・組織提供を受けた。
これらの症例の中で、意思表示カード所持は4 例であったが、死亡前確認は1 例であり、鼓膜損傷のため脳死下臓器提供には至らなかった。
【考察】日常の診療の繁忙さと臓器提供の意思確認の精神的負担、臓器提供時の労力を考慮すると積極的に選択肢提示を行なうのが躊躇されるのも事実である。しかしながら、脳死となった患者の約7 割の家族より臓器・組織提供を受け、10 例中6 例では家族の意思のみで臓器提供が行なわれており、患者家族の臓器提供への関心は決して希薄ではなかった。
さらに、将来的には臓器移植法改正により家族の承諾のみで脳死下臓器提供の可能性もある。
【結語】救急医療終末期の臓器・組織提供の選択肢提示は、救命不能な患者家族に対して、救急医が最期にできる医療の一つではないかと思われた。
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私は以前にも書きましたが、ドナーカードを持っています。市立札幌病院に勤務した際に、腎移植科の平野先生が献身的に腎移植に取り組んでいらっしゃいました。その真摯なお姿を拝見して腎バンクに入ったのが最初です。
救急医療の現場で家族から臓器提供の同意をいただくのは大変なことです。
最愛の人が突然救急車で運ばれ、呼んでもゆすっても返事もしてくれないのです。‘脳死です’なんて言われたって、そこに寝ているのは、つい昨日まで(今朝まで)は元気だった人もいるのです。
誰もが、夢であって欲しい。何かの間違いだ。悪夢だ。と思っている瞬間です。
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救命救急センターの医師、看護師、医療スタッフのだれもが献身的に働いて、家族から信頼されなければ、臓器提供の同意は決して取れません。
この抄録を読んで、私はTVでしか拝見したことがない鹿野先生を‘すごい’と思いました。
医療不信とか医療事故とか、医療に対する国民の目が厳しくなっています。この時代にこれだけの信頼を得るのは素晴らしいことです。
私も、助からない状態になったら、すぐに臓器提供をします。鹿野先生のような素晴らしい医師に治療を受けて助からなければ諦めもつきます。