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加湿器によるヤケド

 私は2000年に行われた熱傷学会で、加湿器による乳幼児のヤケドを発表しました。この発表を読売新聞と朝日新聞が全国版で取り上げてくれました。その報道が契機となり、国民生活センターで調査してくれて、それ以降ハイブリッド式などヤケドの危険性が少ない加湿器が発売されました。
 加湿器は冬に室内の乾燥を防ぐために使用します。25年位前には超音波式といって、超音波で水を細かい霧にして噴霧する加湿器が一般的でした。ところが、加湿器の水に細菌が繁殖して健康によくないという報道があり、一気に衰退しました。その後、熱で水蒸気にするタイプが細菌が繁殖しないので‘健康によい’という理由で普及しました。
 確かに高温で水を水蒸気にするため、細菌は死にますが水蒸気でヤケドをする子供が出てきました。親は赤ちゃんの健康のために水蒸気が出るタイプの加湿器を購入しました。まさか加湿器でヤケドをして指が曲がってしまうとは夢にも考えなかったのです。
 加湿器による子供のヤケドには特徴がありました。ちょうど一歳前後のハイハイをする頃の赤ちゃんです。目の中に入れても痛くないほど可愛い時期です。
 床に置いてあった加湿器から白い湯気がゆらゆら立ち上ると、ハイハイをした赤ちゃんの目に入ります。赤ちゃんは湯気に興味を持ち、自分の手をかざし白いゆらゆらを取ろうとします。その時に悲劇が起こります。白い湯気は水蒸気が水になったものですが、湯気が出ている加湿器の吹出口は100℃以上の高温になっています。
 赤ちゃんがギャァ~と泣き叫んだ時には、赤ちゃんの薄い指の皮膚は深くまで焼けてしまっています。親は加湿器の湯気だからたいしたことはないだろうと様子をみています。数日たって赤ちゃんの指がグチャグチャになっているのに気がつき近所の皮膚科に行きます。皮膚科の先生もまさか加湿器で深いヤケドになるとは考えず、軟膏で様子を見ているうちに指が曲がってしまいます。
 私が治療した子供さんのおばあちゃんが言った言葉を今でも覚えています。『本当にこの子に申し訳ないことをしました。私が傍についていながらこんなことになってしまって…。まさか加湿器でこんなヤケドをするとは夢にも思っていませんでした』
 私が学会で発表して新聞社に取り上げていただいたのは、このような悲劇を繰り返さないためです。それから加湿器は改良されました。加湿器と同じことが炊飯器でも起こります。赤ちゃんがいる家庭ではくれぐれも気をつけてください。

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