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人間の能力
数学の問題を何回やってもダメだった経験は、医学部を受験した人なら誰でも持っていると思います。
ところが、世の中には頭の良い人がいるもので、一度参考書で問題を見ただけでスラスラと解ける人もいます。
医学部の勉強は、ほぼすべてが丸暗記です。解剖学は頭の先から、つま先まで全ての骨、筋肉、神経、血管の名前を地図を覚えるように覚えなくてはなりません。
解剖学実習には口頭試問がありますので、カンニングもできません。
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私など何度もなんども復唱して、トイレに紙まで貼って覚えたものです。苦労して覚えたことは、なかなか忘れません。
カメラで撮ったか、頭の中にコピー機でもあるの?と思うくらい覚えるのが早い人がいます。
覚えるのが早く、忘れるのも早い人もいます。試験の時に覚えてさえいれば試験は通ります。
医師国家試験の前にも、膨大な量の過去問や問題集を叩き込まないと合格できません。
普通の頭の人は、何度もなんども忘れて『自分はバカだなぁ~』と思いながら、苦労して覚えるものです。
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学生さんにレポートを書かせても、短時間で見事に立派なレポートを完成させる人がいます。
頭のデキが違うなぁ~と感心されられることがありました。
大人になって社会に出て仕事をするようになっても、個人の能力の差は出てきます。
研修医に仕事を教えても、一度で覚える人も、何回教えても間違える人もいます。
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私はデキのよい研修医ではなく、北大に入った時はよくチーフレジデントの先生から叱られていました。
一番、頭がよかったのは斉川(サイカワ)先生という北大卒の先生でした。彼は頭がよかっただけではなく、ピアノが上手で形成外科の宴会で見事な腕を披露してくれました。
残念なことに、斉川先生は北大形成外科を辞めて国立がんセンターに行ってしまいました。今は東京で仕事をなさっています。
デキが悪かった私は、他の研修医や看護師と一緒にチーフの先生から叱られながら、コツコツと仕事を覚えました。
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人間にはさまざまな能力があります。受験勉強や医師国家試験の勉強は‘暗記’が得意な方に向いています。
ところが、実際の医療は‘暗記’では片付けられない難問がたくさん出てきます。
研究者になっても、ただ‘暗記’が得意なだけでは世界に通用する研究はできません。
どの職種にも共通して言えることは、他人と接する‘医療’を実践するには、他人とよくコミュニケーションを取れる能力が必要なことです。
他人の目を見て話すことができる能力が大切です。
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このような能力は学校で教わるのではなく、職場や社会に出てから自分で磨くものです。苦労して失敗して覚えるものです。
私もコミュニケーション能力が高い方ではありません。
今は、一開業医として、美容外科・形成外科の診療を生業(ナリワイ)としています。
受験勉強で役に立っていることはあまりありません。数学よりも簿記でも覚えていたらどんなに役立つだろうと思います。
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受験では挫折も味わいました。奈落の底から這い上がる力も受験でできたかもしれません。
丸暗記では覚えられない、さまざまな‘試練’という経験を積むのが受験勉強の価値であり、人間の能力を高めるのかもしれません。