医学講座
車の運転と手術
昨日の更新時講習で、
交通事故は…
注意力散漫(さんまん)が原因と
教えていただきました。
手術はどうでしょうか?
手術中に、
注意力散漫で…
医療事故が起こるとお考えですか?
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医療事故の種類にもよりますが、
医師に関して言えば、
手術中の事故の原因は経験不足で起きます。
手術中は常に注意力散漫にしています。
術者(じゅつしゃ)は手術中に、
術野(じゅつや)を常に見ています。
切開をして、
剥離(はくり)をして、
血を止めて(止血)…
などの操作の間は、
常に術野を注視しています。
原則として目を離しません。
■ ■
ここは車の運転で…
常に前を見るのと同じです。
ところが…
耳からは常に別の情報をキャッチしています。
一番注意するのは、
モニターの音です。
麻酔科の先生に麻酔をお願いしている時でも、
術者はモニターの音を聞いています。
ピッ…ピッ…ピッ…
という音が規則正しく聞こえていれば、
安心できます。
■ ■
私のように局所麻酔で手術をしていると…
患者さんの反応を気にしながら手術をしています。
痛がっていないか?
腰や首は辛くないか?
痒いところはないか?
時々大丈夫ですか?と
声をかけながら手術をします。
その間も目は顕微鏡を見たままです。
たまに局所麻酔の患者さんが、
手術中に眠ってしまうこともあります。
痛みがなくて、
緊張がほぐれると眠ることがあります。
その時は寝息を聞いています。
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手術は車の運転とは違います。
定期航空路を操縦するようなものです。
ベテランのパイロットは、
さまざまな気象条件に対応して、
旅客機を安全に飛ばしてくれます。
どこでどんな雲がよくでるか…?
どこの空港で、何に気をつけるべきか?
を熟知しているのがベテランパイロットです。
急な変化にも対応できます。
■ ■
ベテランの外科医は、
どこで出血しやすいか?
次は何に気をつけて手術をすれば良いか?
を熟知しています。
手術の後には何に気をつけるべきか?
までを完璧に理解しています。
私のように眼瞼下垂症手術など、
同じ手術を数千例もすると、
定期航空路がよく見えるようになります。
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航空機も100%安全とは言えません。
でも、
よく整備された機体で、
ベテランパイロットが操縦すると…
安全性が高まります。
手術も同じです。
経験豊かな外科医が、
細心の注意を払って行う手術は、
安全性も快適性も高まります。
患者さんは、
いかに安全で快適な航空会社を選ぶかが、
大切なポイントとなります。