医学講座
両耳の脇に小さな穴が
平成26年7月22日、朝日新聞朝刊の記事です。
両耳の脇に小さな穴が
生後10ヵ月の娘。生まれたときに産婦人科医から両耳の脇に「耳瘻孔(じろうこう)」があると言われました。
その小さな穴から時々、においのある汁が出ます。
「炎症を起こすようなら手術」と聞きましたが、どうなると手術が必要ですか。
何歳で手術を受けるべきでしょうか。(奈良県・K)
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■答える人 谷口雄一郎(やぐちゆういちろう)さん
聖マリアンナ医科大学准教授(耳鼻咽喉〈いんこう〉科)=川崎市宮前区
Q 耳瘻孔(じろうこう)とは。
A 生まれたときから、耳の脇に小さな穴がある病気です。赤ちゃんの2~5%で起きるという報告もあります。母体内で耳がつくられるときに、本来は残らないはずの管のような穴が埋まらないことで出来ます。穴の中は外からは見えません。人によって形や深さは違い、枝分かれしていることもあります。
Q どんな症状があるのですか。
A 汗やあかなどの分泌物がたまり、においのある泥状の液体になって外に出てくることがあります。感染を起こして赤く腫れたり、痛かったりすると、抗生物質を服用します。切開して、たまったうみを出すこともあります。
Q 手術が必要になることもあるのですか。
A 抗生物質で治った後も、感染を繰り返すことがあります。何度も腫れたり、うみが出たりしている場合には手術した方がよいでしょう。
Q どんな手術ですか。
A 穴を囲むように長さ5~10ミリの切り目を皮膚に入れ、奥に進んで穴の組織を取り除きます。穴の一部が残ると再発する恐れがあるので、取り残さないようにします。小学生くらいまでは全身麻酔をします。3~4日間の入院が必要です。手術の痕は、ほとんど目立たなくなります。
Q 手術は何歳くらいで受けるべきでしょうか。
A 穴は自然に閉じることはありませんが、子どもの成長に伴って、においや感染が落ち着いていくこともあります。年齢よりも症状をみて、何度も感染するようなら手術を考えるのが適当です。赤ちゃんで、においのする液体が出るだけの状態ならば、清潔にして様子を見ましょう。
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耳前瘻孔(じぜんろうこう)
…という2013年7月9日の院長日記があります。
朝日新聞の回答者の先生は耳鼻科医です。
耳の近くだから…
耳鼻科を受診する人が多いです。
皮膚科で手術をする施設もあります。
簡単な手術ではありません。
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私の身内だったら…
耳瘻孔の手術に慣れた形成外科医をすすめます。
形成外科の若い先生への助言です。
朝日新聞の回答にあるような、
5ミリの切開では取り残しの危険があります。
耳瘻孔は奥が深いです。
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教科書に書いてあったり、
先輩から教わる方法は、
朝日新聞の回答にあるような、
穴を囲むように長さ5~10ミリの切り目を皮膚に入れ、
奥に進んで穴の組織を取り除く方法です。
『穴の一部が残ると再発する恐れがあるので、
取り残さないようにします』
…と書いてありますが、
この方法だと取り残すことがあります。
■ ■
理由は、
先に行けば行くほど細くなって、
ちょっと引っ張っただけでちぎれるからです。
私は再発したり、
取り残された患者さんを何人も手術しました。
耳鼻科の先生から依頼されたこともあります。
耳鼻科の先生にとっても、
中耳や内耳の手術と違って耳瘻孔は厄介なのです。
■ ■
特別に秘伝の手術法をお教えします。
ヒントは十勝地方の長いも掘りです。
十勝の長いもは最高級品です。
高価な長いもを傷つけないように掘るのは大変です。
どうやって掘るか?
長いもを引っ張ったりしません。
長いもの周囲の土を深く掘ります。
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長いもの根っこの先まで掘って、
周囲の土を丁寧に除きます。
そうすると高価な長いもに傷をつけずに掘り出せます。
決して長いものつるを引っ張ったりしません。
耳瘻孔には深い根っこがあります。
耳珠という軟骨の奥深くにつながっています。
ここがヒントです。
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ごく浅い耳瘻孔は別ですが、
感染を繰り返したような難治性耳瘻孔は、
穴の周囲ががちがちです。
穴から耳珠に向けて、
ちょっと斜めに8ミリくらいの切開を入れます。
耳珠の軟骨を露出して、
軟骨膜の上を剥離します。
軟骨膜の直上は出血も少ないです。
■ ■
こうやって、
耳瘻孔の根っこまで掘って、
周囲のがちがちの組織を丁寧に剥離して、
下から上に向かって摘出手術をすすめます。
そうすると、
長いものようにキレイ摘出できます。
耳瘻孔周囲にナイロン糸をかけて、
引っ張りながら剥離をしても、
先っぽの根っこが残ることが多いです。
還暦のおじいさん先生からの助言です。
耳瘻孔は形成外科です