医学講座

キズの治し方

 平成20年4月20日、朝日新聞朝刊日曜版 be on Sundayの記事です。
 元気のひけつ
 擦り傷・切り傷
 軽いときは適度に潤いを

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 軽い擦り傷や切り傷ができたとき、どうしていますか。
 消毒して乾かして……。
 実は、
 消毒せずに適度に潤いを保つ方が痛みも少なく、
 治りも早い。
 近年、そんな考えが広がってきました。
 湿潤療法(モイストウンドヒーリング)と呼ばれています。
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 国立成育医療センターの金子剛医長(形成外科)は
 もう5年ほど、手術前の消毒以外には消毒薬は手にしていない。
 「傷の手当てだけではありません。
 手術後も消毒薬は使わず、
 汚れがあれば生理食塩水で皮膚をきれいにしています」
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 理由は
 「そもそも健常じゃない状態なのに、
 かえって皮膚組織を傷つけてしまい、
 痛むし、治りが遅くなる」。
 傷は乾燥させた方が細菌感染も少なく、
 治りが旱い
 -昔はこう思われていた。
 傷口を毎日消毒してガーゼを取り換えるのが
 当たり前だった。
 しかし、結果的に毎日、傷つけることになってしまっていた。
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 金子さんは言う。
 「どうして傷ができたのかを把握し、
 傷の場所や深さをみてほしい。
 出血しているなら押さえて止血し、
 砂が入ったり出血がひどかったりする場合は
 すぐ医療機関へ」
 傷口が深かったり、
 ギザギザになっていたりするほか、
 ガラスや木くずが刺さっている場合も病院に行った方がいい。
 破傷風にも注意がいる。
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 「とにかく落ち着いて。
 早く措置しないと治りが悪いと言われましたが、
 傷は24時間以内に対処すれば大丈夫ですから」
 NPO法人創傷治癒センター理事長の
 塩谷信幸・北里大名誉教授(形成外科)は
 「そもそも傷を治すのは体に備わった自然の治癒能力なのです。
 私たち医師はそれを手助けするだけなのです」と話す。
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 皮膚は、
 細菌などの病原体や化学物質から
 私たちを守る防御壁であるとともに、
 体液が漏れるのを防ぎ、
 体内環境を維持する役目をもっている。
 その大切な壁が破れると、
 修復するための様々な仕組みが働く。
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 傷ができると体液がしみ出してくる(滲出液(シンシュツエキ))。
 この液の中に細胞の成長を促し
 皮膚を修復するためのいろいろな成分が含まれている。
 かさぶたができると
 その分、働きが落ちる。
 この液をふき取ると、治るのを妨げていることになってしまう。
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 逆に液体の状態が保たれると思う存分に能力が出る。
 これが湿潤療法の考えで、
 そのための「モダンドレッシング」という、傷にはるものが開発された。
 家庭用のものも販売されている。
 やけどのときにできる水ぶくれは、
 いわば自然の湿潤療法だ。
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 塩谷さんによると、
 この考えは、1962年に英国の動物学者により、
 動物実験のデータを基に発表された。
 それから半世紀近く。
 ようやく広がってきた、という。
 「傷をふさぐと、かえってうみやすくなるのでは」
 という心配も根強い。
 湿潤療法の普及を遅らせた一因だが、
 実際には感染率は低いと報告されている。
 体液中の白血球などが活発に活動するので
 細菌が抑えられると考えられている。
 そもそも皮膚にはたくさんの常在菌がいる。
 それをぬぐい去ろうと薬に頼っても
 無理があるのかも知れない。 (小西宏)
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 キズが自然に治るメカニズム

炎症期
①血管が破れ出血
②血小板などの働きで血が止まる
③滲出液がにじみ出る
④白血球などが細菌を除く


増殖期
①滲出液が乾いてかさぶたに
②かさぶたの下では残った滲出液の手助けで表皮が完成
③コラーゲンなどでキズを埋めるように組織がつくられる

成熟期
①表皮が再生される
②表皮の下では元に戻ろうと細胞が活動
③組織が収縮し、キズが小さくなる
(「正しいキズケアBook-1」をもとに作製)
 (朝日新聞より引用)
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 プラスα(アルファ)
 NPO法人創傷治癒センターはホームページ (http://www.woundhealing-center.jp/)で、傷の手当ての10ヵ条や床ずれなどの情報を提供している。
 民間団体の「正しいキズケア推進委員会」(http://kizucare.com/)も湿潤療法やキズケアのQ&Aを掲載している。
 正しいキズケアBOOK1~3を無料で配布している。
 子ども向けに分かりやすいイラストで紹介したものもある。
 希望者はホームページから。
 (以上、朝日新聞より引用)
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 キズに対する考え方が変わってきました。
 金子先生は慶応大学形成外科のご出身。
 とても穏やかで優しい先生です。
 子供の生まれつきの耳の病気、
 とくに小耳症(ショウジショウ)の治療がお上手です。
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 塩谷先生は、ブログでもお馴染み。
 元北里大学形成外科教授。
 日本形成外科学会の重鎮のお一人です。
 朝日新聞社は、元気のひけつなど、
 医療記事が充実しています。
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 ただ、誤解のないように捕捉しますと…
 この湿潤療法が有効なのは、浅いキズです。
 イヌにかまれたようなキズに貼ってもダメです。
 感染の恐れがあるキズに、貼ると悪化します。
 浅いキズでも、必ず生理的食塩水(0.9%の濃度)で洗って、
 創面の異物や細菌をできる限り洗い流してから使用します。
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 家庭用として市販されているのが
 ジョンソン・エンド・ジョンソンから発売されている
 キズパワーパッドです。
 病院やクリニックで使用するのが
 デュオアクティブなどです。
 ハイドロコロイドドレッシングといいます。
 どちらも高価な製品です。 
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 キズを見分ける力がない人が
 むやみにこの製品を使用してもダメです。
 また、普通のサビオなどに比べると
 価格が高いのが難点です。
 浅いキズでしたら、生理的食塩水で洗って
 軟膏とサビオでも十分です。
 顔のキズなどを早くキレイに治したければ、
 形成外科医にご相談下さい。

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