医学講座
キズの治し方
平成20年4月20日、朝日新聞朝刊日曜版 be on Sundayの記事です。
元気のひけつ
擦り傷・切り傷
軽いときは適度に潤いを
■ ■
軽い擦り傷や切り傷ができたとき、どうしていますか。
消毒して乾かして……。
実は、
消毒せずに適度に潤いを保つ方が痛みも少なく、
治りも早い。
近年、そんな考えが広がってきました。
湿潤療法(モイストウンドヒーリング)と呼ばれています。
■ ■
国立成育医療センターの金子剛医長(形成外科)は
もう5年ほど、手術前の消毒以外には消毒薬は手にしていない。
「傷の手当てだけではありません。
手術後も消毒薬は使わず、
汚れがあれば生理食塩水で皮膚をきれいにしています」
■ ■
理由は
「そもそも健常じゃない状態なのに、
かえって皮膚組織を傷つけてしまい、
痛むし、治りが遅くなる」。
傷は乾燥させた方が細菌感染も少なく、
治りが旱い
-昔はこう思われていた。
傷口を毎日消毒してガーゼを取り換えるのが
当たり前だった。
しかし、結果的に毎日、傷つけることになってしまっていた。
■ ■
金子さんは言う。
「どうして傷ができたのかを把握し、
傷の場所や深さをみてほしい。
出血しているなら押さえて止血し、
砂が入ったり出血がひどかったりする場合は
すぐ医療機関へ」
傷口が深かったり、
ギザギザになっていたりするほか、
ガラスや木くずが刺さっている場合も病院に行った方がいい。
破傷風にも注意がいる。
■ ■
「とにかく落ち着いて。
早く措置しないと治りが悪いと言われましたが、
傷は24時間以内に対処すれば大丈夫ですから」
NPO法人創傷治癒センター理事長の
塩谷信幸・北里大名誉教授(形成外科)は
「そもそも傷を治すのは体に備わった自然の治癒能力なのです。
私たち医師はそれを手助けするだけなのです」と話す。
■ ■
皮膚は、
細菌などの病原体や化学物質から
私たちを守る防御壁であるとともに、
体液が漏れるのを防ぎ、
体内環境を維持する役目をもっている。
その大切な壁が破れると、
修復するための様々な仕組みが働く。
■ ■
傷ができると体液がしみ出してくる(滲出液(シンシュツエキ))。
この液の中に細胞の成長を促し
皮膚を修復するためのいろいろな成分が含まれている。
かさぶたができると
その分、働きが落ちる。
この液をふき取ると、治るのを妨げていることになってしまう。
■ ■
逆に液体の状態が保たれると思う存分に能力が出る。
これが湿潤療法の考えで、
そのための「モダンドレッシング」という、傷にはるものが開発された。
家庭用のものも販売されている。
やけどのときにできる水ぶくれは、
いわば自然の湿潤療法だ。
■ ■
塩谷さんによると、
この考えは、1962年に英国の動物学者により、
動物実験のデータを基に発表された。
それから半世紀近く。
ようやく広がってきた、という。
「傷をふさぐと、かえってうみやすくなるのでは」
という心配も根強い。
湿潤療法の普及を遅らせた一因だが、
実際には感染率は低いと報告されている。
体液中の白血球などが活発に活動するので
細菌が抑えられると考えられている。
そもそも皮膚にはたくさんの常在菌がいる。
それをぬぐい去ろうと薬に頼っても
無理があるのかも知れない。 (小西宏)
■ ■
キズが自然に治るメカニズム
炎症期
①血管が破れ出血
②血小板などの働きで血が止まる
③滲出液がにじみ出る
④白血球などが細菌を除く
増殖期
①滲出液が乾いてかさぶたに
②かさぶたの下では残った滲出液の手助けで表皮が完成
③コラーゲンなどでキズを埋めるように組織がつくられる
成熟期
①表皮が再生される
②表皮の下では元に戻ろうと細胞が活動
③組織が収縮し、キズが小さくなる
(「正しいキズケアBook-1」をもとに作製)
(朝日新聞より引用)
■ ■
プラスα(アルファ)
NPO法人創傷治癒センターはホームページ (http://www.woundhealing-center.jp/)で、傷の手当ての10ヵ条や床ずれなどの情報を提供している。
民間団体の「正しいキズケア推進委員会」(http://kizucare.com/)も湿潤療法やキズケアのQ&Aを掲載している。
正しいキズケアBOOK1~3を無料で配布している。
子ども向けに分かりやすいイラストで紹介したものもある。
希望者はホームページから。
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
キズに対する考え方が変わってきました。
金子先生は慶応大学形成外科のご出身。
とても穏やかで優しい先生です。
子供の生まれつきの耳の病気、
とくに小耳症(ショウジショウ)の治療がお上手です。
■ ■
塩谷先生は、ブログでもお馴染み。
元北里大学形成外科教授。
日本形成外科学会の重鎮のお一人です。
朝日新聞社は、元気のひけつなど、
医療記事が充実しています。
■ ■
ただ、誤解のないように捕捉しますと…
この湿潤療法が有効なのは、浅いキズです。
イヌにかまれたようなキズに貼ってもダメです。
感染の恐れがあるキズに、貼ると悪化します。
浅いキズでも、必ず生理的食塩水(0.9%の濃度)で洗って、
創面の異物や細菌をできる限り洗い流してから使用します。
■ ■
家庭用として市販されているのが
ジョンソン・エンド・ジョンソンから発売されている
キズパワーパッドです。
病院やクリニックで使用するのが
デュオアクティブなどです。
ハイドロコロイドドレッシングといいます。
どちらも高価な製品です。
■ ■
キズを見分ける力がない人が
むやみにこの製品を使用してもダメです。
また、普通のサビオなどに比べると
価格が高いのが難点です。
浅いキズでしたら、生理的食塩水で洗って
軟膏とサビオでも十分です。
顔のキズなどを早くキレイに治したければ、
形成外科医にご相談下さい。