医学講座

教員定数と解剖実習

 医学部の各講座には、教授、准教授、講師という‘教員’がいます。
 それぞれの講座ごとに、教員定数が決まっています。
 教員の他に、研究補助員という女性秘書がつく場合もあります。
 各医科大学や大学医学部では、総定員が決まっています。
 よほどのことがない限り、教員定数は増えません。
 新参者の形成外科は、どこの大学でも教員定数が少なく、
 何年医局に在籍しても、非常勤職員のままというところもあります。
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 新しい講座ができると、その分だけどこかにシワ寄せがいきます。
 近年は、分子生物学などの進歩で、
 医学部で教える内容が急速に増えています。
 最先端の、世界的に評価される研究をして、
 有名な外国雑誌に論文が掲載されるのが、
 大学教員として、最高の栄誉であり、
 昇進への第一歩です。
 英文論文をたくさん書く。
 研究費をたくさんGETする。
 こんな‘先生’が‘すごい’と評価されます。
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 医学を学ぶ上で大切な解剖学は、
 どちらかというと地道な学問です。
 最先端医学を取り入れているところもありますが、
 学生実習の指導は、いくら熱心にしても、
 ‘業績’として評価されない傾向にあります。
 高校や予備校の教員は、
 学生からの評価が自分の‘評価’や‘業績’となります。
 残念なことに、医学部の教員は、
 いくら学生実習を熱心に指導しても、あまり‘評価’されません。
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 解剖学実習は、医学部の実習の中で、
 人体にはじめてメスを入れる実習です。
 質・量ともに、医学部の中でももっとも大変な実習です。
 一度に100人近い学生が、同時に実習をはじめます。
 この実習を指導する教員数は、
 平均的な医学部や医科大学で多くても5人程度です。
 この少人数で、実習を指導するのは容易ではありません。
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 実習は約半日近くかかります。
 実習の最初から最後まで付きっ切りで指導するのは大変です。
 学生は、マニュアル片手に、慣れない手つきで、
 おそるおそる脂肪を除去して、
 神経や血管を剖出(ボウシュツ)して行きます。
 私が札幌医大に教員として在籍していた時に、
 たまたま学生実習に入る機会がありました。
 ちょっとだけ、手伝って解剖をしてみました。
 学生が驚異のまなざしで私の手を見ていました。
 ‘先生すごい!’
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 手術以外で学生から褒められるとは思ってもみませんでした。
 思えば、私も学生時代は、
 おそるおそる解剖をしていました。 
 私も学生時代には解剖で神経や血管を切ってしまった経験があります。
 神経や血管を切らないで、キレイに出すのが解剖の極意です。
 外科医は、メスの扱いも、手術器具の扱いもプロです。
 私にとってはごく当たり前のことでしたが、
 マニュアル片手の学生が見たら、‘神の手’に見えたのでしょう。
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 一般の方が聞いたら不思議に思うかも知れませんが、
 大学医学部では、外科医が解剖を教えることはありません。
 私は臨床医をしながら、解剖学教室で研究をしました。
 それは、自分が手術で感じていた疑問を解明したかったからです。
 これは私の率直な感想ですが、
 私のような臨床にたずさわる外科医が、
 学生の解剖学実習の指導を手伝えれば、
 医学生の勉学意欲が違ってくるのに…と思います。
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 多くの大学医学部では、熱心な解剖学の教員が、
 少ない人数で解剖実習を教えています。
 残念ながら、どこの大学医学部にも、
 外科医が解剖実習の指導に出向くようなシステムがありません。
 私たち外科医も、最初から手術ができたのでもありません。
 先輩に教えていただき、苦労して手術を覚えました。
 札幌医大の村上教授は、臨床医を解剖に招いてくれました。
 私は機会があれば、もう一度解剖学教室へ出向き、
 学生さんと一緒に解剖実習をしたいと思います。
 30年近く臨床医をしていても、まだまだ未知の世界があります。
 人体とはそれほど奥深いものです。

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