医学講座

熱傷と虐待

 平成28年2月20日の、
 第22回日本熱傷学会北海道地方会
 私の印象に残ったのが、
 15.ヘアアイロンによる小児熱傷2例の治療経験
 ○高橋紀久子、本田 進、北修正洋、木村 中 
(函館中央病院 形成外科)

 函館中央病院形成外科の高橋紀久子先生のご発表でした。
 ヘアアイロンによる子どものやけど、
 2例中一例が虐待でした。
      ■         ■
 高橋紀久子先生のご発表で、
 一般社団法人日本子ども虐待医学会
 こんな学会まであることを知りました。
 日本熱傷学会では、
 過去に虐待による小児熱傷の発表がありました。
 身近にある、
 ヘアアイロンでお母さんが、
 かわいい子どもさんを虐待するなんて、
 ショックでした。
      ■         ■
 日本小児科学会HPには、 
 次の記載がありました。
 虐待による熱傷の所見
身体的虐待の外傷痕の基本的特徴
(1)外部から見えにくい部位(大腿内側部、腋窩部、背部、臀部、頭皮内など)に外傷が存在すること、
(2)新旧混在した外傷があること、
(3)外傷痕から加害原因物(タバコ、ベルト、火箸、紐など)が容易に推定できることの3点が挙げられます。熱傷においても例外ではなく、この特徴を踏まえて熱傷痕を観察します。
虐待による熱傷の特徴
①. 身体的虐待において、熱傷は約9%との報告がみられますが、その多くに、タバコ熱傷が存在するため、これを見逃さないようにすべき
②. タバコなど小型の熱源による熱傷部位は臀部、大腿内側部、腋窩、腹部など露出していない部位に多い
③. 熱傷面が一様な重症度を呈して、健常部との境界が明瞭である
④. 逃げられない子どもが受傷するため、熱源が容易に推定できる。
⑤. 飛び散ったり、かぶったりの受傷(splash burn)がないか、ほとんどみられない。
⑥. 乳幼児の事故による熱傷は、手掌などの上半身中心に受傷していることが多い
⑦. いずれにせよ、熱傷部位よりも、熱傷痕の特徴(境界明瞭、熱傷深度が均一)のほうが、虐待による熱傷の診断に、より特異度が高い
熱源別特徴
①タバコ・車のシガレットライター
a. タバコによる熱傷は、最も高頻度に経験される
b. いずれにせよ、衣類等の被覆部に熱傷を負っていることが多いため、疑いが生じた症例では、必ず裸にして(下着も脱いで)の全身観察をします(医療機関では受診の主訴に関わらず、裸にしての全身観察が求められているといえます)。
c. 中には、若干、タバコ熱傷と即断できない熱傷痕もありますが、受傷部位、新旧混在の外傷痕、などから総合的に診断します
d. シガレットライターによる熱傷痕もその多くはタバコ同様に、熱傷痕の形状から一目瞭然であり、熱傷源を推定でき、虐待を強く疑います
②家庭用品
a. 火箸、焼き網、アイロン、カールゴテなどが経験されますが、時にはクリーニングで使用される金具製ハンガーなども経験されます。
b. 熱傷を受ける部位は経験上、胸部・腹部などの躯幹の前面のみだけではなく、背部も多く経験されますし、四肢も少なくありません。
c. いずれにせよ、熱傷面が一様の重症度・深達度であり、境界明瞭であることから熱傷源の推定が可能なことが多いといえます。
d. 熱さによる、本能的な子どもの逃避・回避行動が熱傷面にみられるかどうかを見極めることが、虐待による熱傷の診断に最も重要です。
③加熱液体(熱湯など)
a. 乳幼児において熱湯による熱傷は、不慮の事故による熱傷の原因としても多い。63.8℃のお湯では1 秒間の接触でⅡ度熱傷を起こし、10 秒間の接触でⅢ度熱傷までおこすことが知られています
b. 不慮の事故と異なり、回避・逃避行動がないため、液体による熱傷なのに、境界が明瞭であり、熱傷の重症度が一定という、最大の特徴があります
c. 不慮の事故による液体熱傷では一般に経験されない部位、すなわち、躯幹~臀部、四肢などに存在する等、部位的特徴もあります。
d. 旧式の風呂などのお湯に浸けられると、上部の湯温が高く、下部の湯温は低いために、熱傷の上部部位が境界明瞭・熱傷度均一、左右対称であり、下部になると熱傷度も軽くなり、不均一になるという特徴があります。
e. また、被虐待児が抵抗できないとはいえ、身を丸めて痛みをこらえるなどの動作にて、腹部の皺部分は熱傷度が低いために、皺に沿って健常皮膚が残ったりすることも特徴です。或いは、もがいて手足の熱傷度が軽いことも経験されます
f. 熱傷部の上部が境界明瞭であり、熱湯が飛び散ったための熱傷痕(splash burn)がないことが特徴です。
g. 臀部から熱湯に浸湯されると周囲の熱傷度が強く、中心部の熱傷度が弱いために、ドーナツ現象と呼ばれる熱傷を起こすことも、虐待の熱傷として知られています
h. 手足を熱湯に浸湯されると、手は手袋(グローブ)状に、足は靴下(ソックス)状に一様に熱傷することも、虐待に特徴的な熱傷として知られています
i. 口腔内熱傷は、乳幼児では余り起こりえない熱傷ですから、口腔内熱傷(特に軟口蓋や口蓋垂や咽頭壁などまで)の場合には強く虐待を疑うべきで、加熱液体を無理矢理飲まされた可能性があるといえます。
④その他
a. あらゆる物体が熱源となりうることが知られています。
b. 夏場の直射日光で加熱された、アスファルト、鉄板、或いは車体などがあり、他にはエンジンを始動しているバイクのマフラーなどです。
c. いずれにせよ、日常的には有り得ない受傷機序であり、熱傷面が均一の重症度であることが虐待疑いの第一歩です。
最後に、これらの熱傷における虐待診断において、熱傷から受診までの時間の遅れ、或いは民間療法や放置(無治療)などによる、熱傷面の感染・汚染を認める場合は、強く虐待を考えるべきです。
熱傷面は感染しやすい特徴がありますが、創部が感染している場合には受傷から、受診までの時間が必要以上に経過しているということを重視しなければなりません。
日本小児科学会子ども虐待問題プロジェクト、2006.4

      ■         ■
 虐待を疑う小児熱傷を診察したら、
 小児科医と相談の上、
 児童相談所への通報など、
 適切な対応が必要だとわかりました。
 函館中央病院には、
 院内に児童虐待に関する
 児童虐待防止委員会があることを知りました
 ただやけどを治すだけではなく、
 患者さんの家族背景などを考える必要性を痛感しました。
 高橋紀久子先生ありがとうございました。

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