医学講座

乳房外パジェット病の見落とし

 昨日届いた、
 医療事故情報センターの、
 センターニュースNo375号です。
 われわれ形成外科専門医や、 
 皮膚科専門医にとって、
 重大な裁判例が載っていました。
 同じ誤診を繰り返さないために、
 全文を引用して掲載します。
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 症例報告 その4
 乳房外パジェット病が4年5ケ月にわたり見落とされ、広汎な皮膚切除を余儀なくされた事例
 佐藤克哉(新潟県弁護士会)
 事件番号:新潟地方裁判所 平成29年(ワ)第529号 和解日:平成30年12月27日
【患者】46歳・男性
【医療機関】開業医・皮膚科
事案の概要
 患者は、左陰嚢部に痒みを伴う紅斑と陰茎部に1円玉大の白斑があるのを自覚し、平成20年9月11日、相手方を受診した。
 相手方医師は、将来乳房外パジェット病の鑑別が必要になるかもしれないと認識しつつ、湿疹と診断し、ステロイドを処方した。患者がステロイドを外用すると、痒みは軽快し、紅斑は縮小。同月16日の2回目の受診をもって治療終了となった。
 しかし患者がステロイドの外用を中止すると症状が再燃。外用を再開すると症状が軽快するため、ステロイドを使い切るまで症状の軽快と再燃を繰り返していた。
 平成22年5月、3回目の受診。同様に湿疹と診断され、ステロイドが処方された。このとき相手方医師は、後日の患者の再来に備え、乳房外パジェット病の鑑別診断を依頼する公立病院宛ての紹介状の下書きを作成していたが、当該作成の事実は患者に知らされておらず、患者も再来しなかったため、紹介状は使用されなかった。
 平成24年7月には4回目の受診が、同年8月には5回目の受診がなされたが、同様に湿疹と診断され、ステロイドが処方されただけであった。
 なお、相手方医師は、5回目の受診終了後にも公立病院宛ての紹介状の下書きを作成していたが、前回同様、当該作成の事実は患者に知らされず、紹介状が使用されることもなかった。
 平成25年3月、患者が別の皮膚科開業医を受診したところ、直ちに大学病院を紹介され、皮済生検の結果、乳房外パジェット病と確定診断された。
 平成25年7月、拡大皮膚切除術施行。悪性細胞は陰嚢や陰茎から肛囲まで進展しており、広汎な皮膚切除を余儀なくされた。その結果、10ケ月間、人工肛門での不自由な生活を強いられ、さらに、術後、下肢にしびれ感が残った。
争点
①乳房外パジェット病鑑別のための皮膚生検を実施すべき時期
②上級医療機関へ紹介する可能性を認識した医師が患者に対して取るべき対応
③注意義務違反と損害との因果関係
④損害評価
経過
 平成28年4月証拠保全実施。協力医面談により、3回目の受診時(平成22年5月)ないしは4回目の受診時(平成24年7月)には皮膚生検を実施すべきであったと考えられるとのアドバイスを受け、示談交渉を実施したが、合意に至らず。
 平成29年11月提訴(請求額1100万円)。相手方医師及び患者本人の人証調べが行われ、平成30年12月和解成立(和解額250万円)。
コメント
 乳房外パジェット病は高齢者によくみられる皮膚がんの一つである。一見すると湿疹や白癬にも見えるため、皮疹の性状を熟知した皮膚科専門医でなければ臨床的に鑑別することは難しい。もっとも、文献では、そうであるからこそ、疑いが強い場合や、紛らわしい場合には、積極的に皮膚生検を実施する必要があると指摘されていた。
 また、乳房外パジェット病にステロイドを外用すると、臨床症状が一過性に軽快するため、患者が症状が改善したと述べている場合であっても要注意であるとも指摘されていた。
 本件では、まさに、ステロイド外用により症状が終決したため、受診の間隔が空いてしまったものである。
 もっとも、相手方医師はホームページ上で大学病院時代と同レベルの診療水準の維持を標榜している皮膚科専門医であったことから、2回目の受診時、遅くとも3回目の受診時には、自ら皮膚生検を実施するか、上級の医療機関を紹介すべきであったとして提訴した。
 当初、争点は過失ではなく、損害の評価と因果関係に収斂するものと予想していた。
 しかし、裁判所は、3回目の受診時に医師が患者に再来を指示した旨のカルテの記載があるにもかかわらず、患者がその後しばらく再来しなかったことを疑問視する姿勢を示した。
 患者にはこのとき医師から再来を指示された記憶はなかった。
 当方は、医師が紹介状の下書きを作成しておくほど患者に乳房外パジェット病を疑っていたのであれば、その旨を患者に具体的に説明して、必ず再来するよう約束させるべきであり、そのような説明をしていなかったからこそ患者は再来しなかったのであると主張したが、和解勧試の際にも裁判所からこの点を指摘され、結果として裁判所の提示額である250万円で和解する形となった。
 一定の経済的填補はなされたが、立証のハードルを痛感させられた事案であった。
 (以上、センターニュースより引用)

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 皮膚がんの見落とし
 2015年2月10日の院長日記です。
 私たち形成外科医は、 
 皮膚がんの手術をします。
 乳房外パジェット病
 乳房外ぺージェット病
 乳房外Paget病は、
 男性にも女性にもできます。
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 あそこが赤くなります。
 かゆみがある場合も、
 ない場合もあります。
 手術をする時には、
 何箇所も生検を取って、
 正確に切除範囲を決めます。
 それでも再発することもあります。
      ■         ■
 残念なことに、
 患者さんが亡くなってしまうこともありました。
 CEAという腫瘍マーカーが上昇することもあります
 皮膚科専門医だけではなく、
 形成外科専門医、
 婦人科の先生、
 泌尿器科の先生にも、
 ぜひ覚えていただきたい疾患です。
 生検を取る時には、
 あやしいところは何箇所も取ることです。
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 貴重な症例を報告してくださった、
 医療事故情報センターに感謝いたします。
 センターニュースの購読をおすすめします。
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