医療問題

診療情報管理士

 平成19年12月11日(火)朝日新聞朝刊の投稿-私の視点-からの引用です。
 ◆カルテ 長期保存支える体制整備を
 診療情報管理士 枝光 尚美(エダミツ ナオミ)
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 山口普史氏の「カルテ長期保存し診療に生かせ」 (11月2日付本欄)を興味深く読ませていただいた。
 そのなかで山口氏はカルテなどの診療録が廃棄される背景として、医療紛争の増加に伴い診療録が裁判に使われる心配があるためと指摘されていたが、私の意見は少し違う。
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 医療機関が診療録を廃棄しているのは、来院しない患者の診療録を管理するために膨大な費用が必要で、保管場所の確保が困難なこと、法的にも長期保存が求められていないことが主な理由であると考える。
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 私が勤務する大阪府内の医療機関の医師は、自分たちの行った先進的な医療には数十年後にならないと評価できない場合があり、その評価を終えるまで診療録の廃棄はあってはならない、という。
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 実際に、薬害エイズやC型肝炎の原因となった血液製剤使用の確認では、医師法で保存が義務付けられている5年間を過ぎた問い合わせが相次いだ。
 その際、多くの医療機関で診療録が廃棄されていたために使用の有無の確認ができない事例が発生した。
 過去の診療録は、山口氏が述べておられるとおり、患者さん個人だけでなく国民の財産であることは明白である。
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 私の勤務先では、開院以来26年間すべての診療録が保存されている。開院後18年目に保管庫の確保が困難となったため、過去の記録の廃棄を検討したが、診療録の長期保存は、患者さんはもとより日本の医療の質向上のために不可欠であると判断し、スキャナーで読み取りデジタル化して保存するようになった。
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 しかし、このように長期保存をしても、診療報酬上の評価はほとんどない。いまの診療報酬制度では、診療情報を適切に管理している施設に対し、1入院につき30点(300円)の加算が認められているのみ。診療録は各医療機関の使命感によりかろうじて残されているのが現状だ。
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 私は今年6月、韓国の先進的な病院を訪問する機会があった。そこでは1958年の開院以来、過去の入院診療録約100万件をすべてデジタル化して保存しており、診療録管理室には約50人のスタッフが配属されていた。
 日本の医療機関でもここ数年、診療情報管理の必要性についての認識は高まっているものの、配置されている診療情録管理士は、まだまだ少ない。
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 診療情報管理士は一般には知られていない職種だが、1972年から養成が始まり、これまでに約1万4千人が誕生している。
 診療録を点検して記載の不備があれば医師や看護師に要請して、きちんと完成してもらうとともに、診療が終わると迅速に回収し、保管・管理にあたるのが仕事だ。
 貴重な臨床経過であっても、記録が不完全であれば、たとえ長期間保存しても将来、患者さんや医療の質向上には利用できない。
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 これら貴重な診療情報を社会に還元させるためには、長期保存を支える診療報酬上の評価を行うとともに、適切な診療録を作成できるような体制を整備するため、医療機関への診療情報管理士配置を義務付けることが望まれる。
 (以上、朝日新聞より引用)
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 私が今までに勤務した病院の中で、一番診療録(カルテ)の管理がしっかりしていたのが、労災病院でした。
 当時の労災病院は、労働福祉事業団という労働省の外郭団体が経営していました。
 北海道の労災病院は、岩見沢、美唄、釧路と産炭地に建設されました。
 産炭地では、珪肺症(ケイハイ)など、長期にわたって治療や経過観察が必要な疾患があります。
 労災では、必ず補償が絡むため、診療録の長期保存は必須です。
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 労災病院には、ベテランの診療情報管理士がいらっしゃいました。
 恥ずかしい話しですが、医学生はあまりカルテの記載方法について学びません。医師国家試験にも出題されません。
 偉い先生が書かれたカルテでも、ミミズが這ったような字で、何が書いてあるかさっぱり解読不可能なものもありました。
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 今はどうかわかりませんが、私が医師になった頃の最初の仕事は、カルテに検査伝票を貼る、‘紙貼り’という単調な仕事でした。
 糊のつけ方が悪いと、カルテがくっついてしまいます。貼り方が悪くて先輩によく叱られたものです。
 内科では、患者さんが退院する時に、サマリーというまとめを書きました。これが結構厄介で、レポートとしてまとめるのが学生の勉強の一つでした。
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 労災病院では、カルテがしっかり書かれていないと、診療情報管理士(当時はカルテ室と呼んでいました)からお呼びがかかり注意を受けました。
 医師といえども、注意されたらしっかり書かなくてはなりません。注意していただいたおかげで勉強になりました。
 私どもの診療所を含めて、これからの時代は電子カルテだと思います。電子化なくしては、カルテの長期保存は不可能です。
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 電子カルテと診療報酬請求書(いわゆるレセプト)をドッキングさせたシステムが必要です。
 できればフォーマットを決めて、医療機関同士がお互いにファイルを交換できるようなシステムが望ましいと思います。
 こういう仕事は国が率先してして欲しいのですが、日本の厚生労働省では無理なようです。

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