医学講座
第25回日本形成外科基礎学術集会(大阪)③
昨夜、大阪から札幌に戻りました。
充実した2日間でした。
日本形成外科基礎学術集会には、
過去に数回出席しています。
基礎学術集会なので、
私が聞いてもちんぷんかんぷんで、
さっぱりわからない内容の演題もあります。
はっきり言って、
分子生物学は苦手です。
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今回の第25回日本形成外科基礎学術集会(大阪)は、
今までの基礎学術集会と比べて、
参加者が圧倒的に多かったように感じます。
主催者側の発表では、
初日に1400人を超え、
私の推測では、
2日間で1500人を超えていると思います。
美容外科の先生のお顔も見ました。
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理由は新しい専門医制度です。
講習を受けて、
受講証をいただかないと、
新専門医制度では専門医の更新ができません。
ですから、
全国から多数の形成外科専門医が出席しています。
講習会の時は、
3会場に同時中継をしていました。
一度に1000人以上が聴講できます。
時代は変わりました。
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今回の第25回日本形成外科基礎学術集会で、
私が一番聞きたかった発表です。
残念なことに、
一番最後の方で発表があったため、
広い会場にいたのは、
わずか数十人でした。
貴重な発表なのに残念でした。
抄録集に載っていた抄録を引用します。
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O-36
上眼瞼における感覚神経の走行形態に関する解剖学的分析
1)東京医科歯科大学大学院 形成・再建外科学分野、
2)国立がん研究センター東病院 形成外科、
3)東京医科歯科大学 統合教育機構、
4)東京医科歯科大学大学院 臨床解剖学分野
東野琢也ひがしのたくや1,2)岡崎睦1)、森 弘樹1)、山口久美子3)秋田恵一4)
【目的】上眼瞼の感覚神経の分布は眼窩上神経からの分枝が主とするいくつかの記述がみられるが、その詳細は明らかでない。上眼瞼の局所麻酔手術の際に上眼瞼の感覚神経の分布を知っていることは重要であるため、今回、その分布様式について分析したので報告する。
【方法】東京医科歯科大学の解剖実習体の上眼瞼16側[男性5側(右4側、左1側)、女性11側(右7側、左4側)、平均年齢88.7歳]について、眼窩上神経、滑車上神経、滑車下神経、涙腺神経を顕微鏡下に解剖し、眼瞼の神経分布について検討した。
【結果】眼窩縁から眼輪筋下に出た眼窩上神経、滑車上神経、滑車下神経は細い分枝に分かれて眼輪筋下を瞼板の方向へ走行し、所々で眼輪筋を貫いて眼輪筋上へ向かう枝を出しながら瞼板に到達していた。眼輪筋上へ出た細枝は眼輪筋上を尾側に向かって走行しながら皮膚にむかうと考えられた。上眼瞼に分布する神経の枝の数は、滑車下神経由来が1.6±1.2本、滑車上神経由来が3.2±1.5本、眼窩上神経由来が2.6±1.4本、涙腺神経由来が1.8±0.9本だった。また、眼窩上神経由来で瞼板の方向に向かわず外側方向に走行する外側枝が1.3±0.4本みられた。神経分布を検討したところ、滑車下神経は上眼瞼内側に、滑車上神経は上眼瞼内側から中央部に、眼窩上神経は眉毛外尾側を含む上眼瞼外側に、涙腺神経の皮枝は外眼角部頭側に分布していた。
【考察】上眼瞼の感覚神経は主に眼輪筋下を走行しながら瞼板に到達し、その途中で皮膚へ向かう枝を分枝していた。眼窩上神経由来の分枝より滑車上神経由来の分枝の数が多い傾向にあり、上眼瞼に広く分布していた。上眼瞼の局所麻酔では、麻酔薬を注入する深さや位置によって麻酔の効き方をコントロールできる可能性が示唆された。
(第25回日本形成外科基礎学術集会抄録集より引用)
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私は解剖学教室で研究をしたのでわかります。
発表者の東野琢也先生は、
診療が終わってから、
夜にだれもいない解剖学実習室に行かれて、
ご遺体を顕微鏡で丹念に観察したのです。
発表で示された写真は、
きれいに神経を剖出ぼうしゅつされていました。
きっと手術も丁寧な先生です。
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眼瞼下垂症手術をする時に、
必ず目頭側に知覚神経があります。
この神経を損傷すると、
眼瞼下垂症手術の術後に、
上睫毛内側の感覚がにぶくなくなります。
数ヵ月で戻りますが、
『先生、マスカラを塗っても感覚がない』
…と言われることがあります。
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東野琢也先生のご研究で、
この神経が滑車上神経の枝だとわかりました。
私はこの神経を丁寧に残しますが、
切ってしまう先生もいます。
東野先生も残すそうです。
まぶたの解剖一つにしても、
まだまだ研究されていない分野がたくさんあります。
私は分子生物学を否定するわけではありませんが、
手術が上手になるためには、
地味な解剖学の研究が役立ちます。
これからも研究を継続していただきたいです。
すばらしいご発表をありがとうございました。