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職安窓口_非正規が9割
平成28年9月5日(月)、北海道新聞朝刊のトップ記事です。
【憲法70年 第3部 護憲のゆくえ】
<1>職安窓口 非正規が9割
企業と求職者を結ぶハローワーク(公共職業安定所)の窓口で、職員たちが熱心に相談に当たっている。経験と知識が求められる労働行政の最前線。ここに座る職員の9割は 非正規労働者 という。
道央のハローワークで働く50代前半の男性も、その一人。「期間業務職員」という位置付けで、1年ごとに更新される。「非正規と言っても自負がある。専門知識を積んできていますから」
社会保険労務士の事務所や介護関連企業を経て、5年前にハローワークへ転職した。企業側を担当し、多い時で1日に15社の担当者と窓口でやりとりする。新しい求人を出す企業を探して外回りもする。
窓口で働く非正規職員の年収は、税引き前で200万円前後から300万円台。正規職員にあるボーナスや手当のほとんどはない。非正規職員の年収の上限は、正規職員の新人(大卒)と同水準だが、正規と違って昇給はなく雇用も不安定だ。
公務員の非正規労働者は「官製ワーキングプア」とも呼ばれ、総務省の調査によると、地方公共団体で約60万人(2012年)、国家公務員で約7万人(15年)。合理化や人件費の抑制という目的は民間と同じだが、公務員には行政改革という圧力も加わる。
「自治体でドカンと増えたのは00年代。とりわけ小泉純一郎首相(当時)の改革路線が進んだ05年ころには、行革によって正規職員がどんどん減り、代わりに非正規が増えることになった」。北海道地方自治研究所(札幌)研究員の正木浩司さん(43)は指摘する。自治体によっては非正規職員の給料を物件費や事業費に計上し、人事課が人数や待遇を把握していない例もある。「労働者が存在すると認識されておらず、人間として扱われていない。人権問題です」
日本国憲法25条は、人間らしい生活を送るための 生存権 を定める。格差の開きを埋める社会保障政策を国に求める根拠だが、非正規労働の拡大は 生活保護 や年金の削減と軌を一に進められてきた。25条は深く傷つき、生存権はないがしろにされている。
道央のハローワークで働く男性にとっても、条文の理念が実現しているようには思えない。
「また、あの季節が来るんです」。男性の1年ごとの更新は2度まで。3回目に自分のポストは一般求人の対象となり、続けて働きたいなら、あらためて応募する必要がある。「公務員の仕事は平等に広く募る」という人事院の方針で、10年に導入された。
来年2月初めごろ、男性のポストを含む求人票が出る。窓口に座る人たちも含めて道内ハローワーク職員の6割近くに当たる約780人は非正規。このうち少なくとも約500人のポストが公募される見通しだ。求職者を担当している職員ならば、自分のポストに応募しようと窓口に来る人の相談に応じなければならない。予算が削られてポストをなくした職員が、同僚のポストに応募することもある。
男性は14年春にも公募を経験した。「年明けごろから、職場に微妙な空気が流れ始めるんです。両隣に座る同僚が競争相手になるかもしれない。表面上はニコニコしているけど、会話が減っていきます」。精神的にまいってしまい、辞めざるを得ない人も出ている。
労働行政の最前線にも押し寄せる格差社会。非正規労働者たちの苦悩を生む社会は、どのようにつくられたのか。
■市場を優先 格差を助長
1994年2月。東京ディズニーリゾートがある千葉県浦安市舞浜のホテル「ヒルトン東京ベイ」に、経済同友会の主なメンバー十数人が集まった。バブル景気後の不況に見舞われる中、今後の企業経営のあり方を泊まりがけで話し合うためだった。
「舞浜会議」と言われる集まりは「私的な会合で議事録は見当たらない」(経済同友会)が、後に出版された出席者のインタビュー集によると、激しい論争が繰り広げられていた。
経営が厳しくても雇用重視を掲げる新日鉄社長の今井敬氏(86)。従業員は経営資源のひとつという オリックス 社長の宮内義彦氏(80)=両氏の肩書はいずれも当時=。「今井・宮内論争」と伝えられる応酬は、伝統的な日本の雇用政策を守ろうとする重厚長大産業トップと、米国の大学を出たグローバル時代の経営者の衝突だった。
その後の財界の方針や、政府の政策に投影されていくのは、宮内氏の主張だった。日経連(後に 経団連 と統合)は翌年、提言書「新時代の日本的経営」を発表する。「今の労働政策の源流です。日常業務は派遣社員にまかせる。非正規労働力を使うべきだと主張したのです」。東北大名誉教授の日野秀逸(しゅういつ)さん(71)は指摘する。
医師である日野さんは、社会保障や医療保険を研究するうちに、経済・労働政策とのつながりに着目するようになった。命や健康を守るため、憲法についても深く考えをめぐらせる。
<国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については…最大の尊重を必要とする>
日野さんが「憲法の最も太い柱」と言うのは、幸福追求権を定める13条だ。「幸せを求める13条を実現するために、生存権を保障する25条も土台となっている」
日経連の「新時代の日本的経営」をはじめ、90年代半ば以降、規制緩和や構造改革を訴える経済団体はさまざまな提言書を出し、政府に影響力を及ぼした。農業や教育、医療の分野も「市場」にまかせよと主張した。市場・営利優先の社会は格差を広げ、13条の求める世界からかけ離れてしまった。その流れを日野さんは「憲法から市場へ」と言い表す。
格差社会によって、民間だけでなく公務員にも増え続ける非正規労働者たち。労働行政の最前線であるハローワークで、非正規職員の多くが来春に臨む「公募」は、格差がもたらすいびつな制度でもある。
来年の2月半ば。自分のポストで働き続けたいハローワークの非正規職員たちは、交代で自席を離れ、上司ら3人の面接を受けることになる。終われば何事もなかったかのように、職場へ戻る。ある正規職員は「一般の求職者も同じ枠を受けに来る。おざなりにやれば公務員バッシングを浴びかねない」と漏らす。
「一緒に働いていた2人が競わされ、1人は精神的に参って辞めた」
「採用されなかった一般求職者の生活を思うと眠れない」
公募の問題点について、ハローワークの労働組合がまとめた非正規職員たちの手記に、そうつづられる。悲痛な声は、広がる格差の海にのみ込まれていく。
◇
憲法を傷つけ、壊そうとする動きが進んでいる。その現実に目をこらし、憲法の存在意義をあらためて考える。(報道センター編集委員の斎藤正明と楢木野寛が担当し、5回連載します)
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月曜日の朝から、
気合が入ったいい記事だと思って読みました。
私は開院以来、職員募集で何度もハローワークのお世話になっています。
いい人材を紹介してくださいます。
長く勤めてくれている職員は、
6年半にもなります。
私の貴重な財産です。
ありがたいことです。
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ハローワークの担当者はとても♡親切です♡
実に適切に助言をくださいます。
毎回感謝しています。
人材派遣会社にお願いしたことはありません。
そのハローワークで働いている人たちの、
9割が非正規職員とは驚きました。
昔の北大病院の研修医は、
任期一日日々是を更新という制度でした。
年度末の3月30日で更新が切れて、
3月31日には非正規雇用の研修医はゼロでした。
■ ■
3月31日が診療日だとすると、
その日は、
教授、助教授、講師、助手以外の先生は、
非正規雇用でも、
アルバイトでもない、
幽霊雇用の状態で、
ボランティアで北大病院で働いていました。
今も研修医の多くは非正規雇用です。
■ ■
先日いらした大学生の患者さん。
アルバイトはコンビニ店員さんです。
時給は最低賃金だそうです。
今朝の北海道新聞に掲載されていた求人広告、
大部分は時給800円台でした。
時給900円を超えているのはわずかです。
契約社員ばかり増えている印象です。
これでは格差婚でも、
♡お嫁さんになってください♡
…はなかなか言えません。