医学講座
解剖の教科書
医学部はお金がかかる。
とよく言われます。
私大の医学部は入学金も授業料も高額です。
国公立大学は、医学部も他の学部も授業料は同じです。
私が札幌医大の学生だった30年前は、
授業料は一ヵ月3,000円でした。
子供がいた同級生が、
‘幼稚園より安い’と言っていたのを覚えています。
私の数年前に入学した先輩は月1,000円でした。
留年しても入学時の授業料が維持されるシステムでした。
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他学部と違ったのは、修業年限が6年間だったこと。
これも、今では獣医学部や薬学部も6年間になりました。
ですから、医学部だからといって、
特別にお金はかかりませんでした。
ただ高価だったのが、教科書代金でした。
今では安価な教科書もありますが、
当時は、廉価版といえど、一冊一万円程度しました。
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授業料と教科書代金は親が出してくれました。
ただ、一冊数万円もする本は、
さすがに買ってくれとは言えませんでした。
医学は日進月歩です。
30年前と現在では、覚える内容もガラリと違います。
30年前の教科書で、
唯一、現在も使えるのが、
解剖学の教科書です。
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人体の構造は、30年経っても変わりません。
私は30年前に使った教科書を今でも見ることがあります。
また、30年前は高価で買えなかった教科書を
ようやく手にして、大切に持っていて使っています。
外科学の基礎は解剖学です。
内科学でも解剖学はとても大切です。
医学生の時は、解剖実習が重労働で大変でした。
夜まで解剖実習室に残って、解剖をしたり、
口頭試問の前日は、
遅くまで同級生と確認し合って、勉強したものです。
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医師になってからの方が
解剖学の重要性がわかりました。
いくら教科書を読んでも、
3次元的な構造はわかりません。
教科書にも書いていないことがあります。
私が解剖学教室で研究をして論文を書いたのはそのためです。
臨床の場で‘人体実験’や‘練習’はできません。
外国では、ご遺体を使わせていただく、
手術トレーニングがあると聞いて、羨ましく思いました。
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解剖の教科書には、
実習室でついたシミや臭いがついています。
30年経っても残っています。
少し汚れた教科書ですが、
辛かった解剖学実習の想い出となっています。
これから解剖学実習をはじめる医学生諸君。
一生で一度しか経験できない貴重な体験です。
医学生だけに許された実習です。
30年経っても役に立ちます。
しっかり勉強してください。