医学講座

造腟術後の合併症

 第134回日本美容外科学会学術集会(東京)
 …で私が聞いた内容で、
 忘れないうちに書き残しておこう!
 …と強く思ったのが、
 造腟術後の合併症です。
 私自身が造腟術を行うことはありませんが、
 ふつうのお医者さんが、
 造腟術後の合併症を診ることは考えられます。
      ■         ■
 実は性同一性障害(GID)の患者さんだけではなく、
 ふつうの女の子として生まれた方で、
 先天性に腟がない患者さんがいます。
 文献によると、
 女性4,000~5,000人に1 人の頻度で発生する、
 Rokitanskyロキタンスキー症候群
 …という病気があります。
 思春期になっても生理が来ない、
 原発性無月経の約10%を占めると言われています。
      ■         ■
 私の2012年10月4日の院長日記、
 第21回日本形成外科学会基礎学術集会(福島)①
 …に書いてあります。
 今日の学会では、
 ガイドラインシンポジウム1
 「殿部外陰部の再建」を聴きました。
 大学病院の形成外科では…
 他科からの依頼で再建手術をすることがあります。
 私は札幌医大形成外科の時に、
 よく婦人科の先生から依頼を受けていました。
      ■         ■
 一番難しかったのが、
 造腟術という腟を作る手術です。
 ロキタンスキー(Rokitansky)症候群という病気があります。
 4,000人から5,000人に一人の割合で、
 女の子に発見される病気です。
 一番多いのは、
 思春期になったのに生理が来ないという症状です。
      ■         ■
 専門的な言葉で、
 原発性無月経(げんぱつせいむげっけい)といいます。
 婦人科で検査してみると…
 外見は女性で、
 染色体も46XX と正常女性なのに…
 腟がありません。
 子宮もないことがあります。
      ■         ■
 私が婦人科の先生と診察した患者さんは、
 外見はまったくふつうの女の子でした。
 子宮がなくても…
 性交だけはできるように…
 造腟術を行います。
 形成外科では古くからある手術です。
 癌の患者さんに手術をしたこともあります。
      ■         ■
 この造腟術、
 難しい手術です。
 作った腟が小さくなってしまうことがあります。
 今回のガイドラインシンポジウムでは、
 岡山大学形成外科の難波祐三郎先生が、
 『腟の機能的再建には腸管が有効である』
 …というエビデンスを教えてくださいました。
      ■         ■
 腟を作るのに…
 回腸という腸管を使う方法です。
 私は経験がありませんが、
 10年以上前から、
 腸管を使うと…
 機能的にも満足度が高い腟再建ができると…
 聞いていました。
      ■         ■
 女性にとって…
 機能的にも満足度が高く、
 パートナーの男性の満足度も高いという結果です。
 私自身は手術をすることはありませんが、
 これからの時代の第一選択は、
 腟再建には回腸移植となります。
 日本形成外科学会としてのガイドラインはまだですが、
 腟欠損で困っている方へ朗報です。

      ■         ■
 2012年10月のガイドラインシンポジウムでは、
 回腸という腸管を使う方法が有用だと教えていただきました。
 腸管を使う方法の他に、
 皮膚を使う方法があります。
 YouTubeに動画が出ています
 この動画では、
 陰茎の皮膚を使って腟を造っています。
 男性から女性にする手術法の一つです。
 よく知られた方法の一つです。
      ■         ■
 皮膚を使って腟を造ると、
 手術後に腟内腔に角質がたまります。
 皮膚から出る垢です。
 女性の腟内腔は粘膜なので、
 垢は出ません。
 私が診察をしたことがある患者さんは、
 造った腟内腔に、
 毛と垢がたまっていて、
 信じられないにおいを放っていました。
      ■         ■
 皮膚で造った腟内腔は、 
 拡張器を入れておかないと、
 狭くなってしまいます。
 お手入れが大変です。
 使わないで放置すると、
 入口が閉じてしまって、
 造った腟内腔に角質が腫瘍のようにたまることがあります。
 感染を起こして腹腔内に拡大することがあるそうです。
      ■         ■
 救急搬送された患者さんを診察した医師は、
 まさか腟を造った後遺障害で、
 後腹膜に大量の膿がたまるとは考えません。
 私も百澤先生から教えていただくまで、
 考えてもみませんでした。
 皮膚で造腟術を受けた患者さんは、
 定期的に診察を受けて、
 異常がないか診てもらってください。
 救急搬送されてからでは遅いです。

“造腟術後の合併症”へのコメント

  1. えりー より:

    先天的に膣がない人がいることは
    知っていましたが、膣を造る
    詳しい知識は知りませんでした。
    教えていただいてありがとう
    ございます。改めて医学そして形成外科は、
    すごいなぁと率直に思いました。
    腸管と皮膚どちらで造るのか、
    それぞれメリットデメリットが
    あるのですね。皮膚で造って
    もらった患者さんに定期的な
    診察がとても大切だということが
    伝わることを願っています。

    【札幌美容形成外科@本間賢一です】
    コメントをいただきありがとうございます。私は造腟術を受けた患者さんを診察したことがあります。でもまさかお腹の中に炎症がおよぶとは考えてもみませんでした。男性→女性になるための女性ホルモン投与で血栓症を起こすこともあるそうです。頭の中に知識としてなければ正確に診断できないことがあります。教えていただいた百澤先生に感謝しています。

  2. なっちゅん より:

    ロキタンスキー症候群というのは
    三日前くらいに偶然知りました。

    性同一性障害で
    男性から女性になった方のYouTubeを
    見ましたが
    管理が大変だと分かりました。

    【札幌美容形成外科@本間賢一です】
    コメントをいただきありがとうございます。ロキタンスキー症候群の患者さんは外見はまったくふつうの女性です。腟を造る手術は婦人科と形成外科で行われることが多いです。手術後にトラブルになることは少ないと思います。男性→女性への手術後に問題が起こるようです。

  3. さくらんぼ より:

    そんな手術があり後遺症がある事も知りませんでした。勉強になりますね。私事ですが、福島県立医科大学を卒業して山形で麻酔科医をしていた同級生が先日膵臓癌で亡くなりました。中井貴一の富良野のドラマみたいです。

    【札幌美容形成外科@本間賢一です】
    コメントをいただきありがとうございます。さくらんぼさんの同級生の麻酔科の先生のご冥福をお祈りいたします。風のガーデンというドラマでした。よく覚えています。エゾサンゴサクがきれいに咲いていました。残念ですね。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

TEL 011-231-6666ご相談ご予約このページのトップへ