医療問題
過渡期の医療過誤防止システム
平成21年5月4日、
北海道新聞の記事です。
過渡期の医療過誤防止システム
ネットで“医師暴発”は論外
東大名誉教授_村上陽一郎(むらかみよういちろう)
医療の安全をめぐる問題は、筆者が「安全学」という領域を探し当てるきっかけをつくったもので、長年の関心事である。一つには、医師やその周辺の関係者に、品質管理や、システムの立場から安全に取り組む発想が、過去に極めて乏しかったからだ。
1980年代初め、ある医学者の集まりで、医療の品質管理という言葉を使ったとたんに、激しい反発が起こったことはいまだに忘れられない。あるいは、システムの立場からの安全対策として、フール・プルーフ(ミスがあっても事故に至らないような設計)の必要性を説いたときに、ある医師はいみじくも、「われわれはフールではないから、その概念は医療にはなじまない」と言い放った。1986年のことだった。
航空界が先例
現在事態は急速に改善されつつある。まともな医療機関は、ほとんどすべて安全管理室を備え、「インシデント・アクシデント・リポート」 (ひやり・はっと体験申告)の制度も立ち上げてきた。日本医療機能評価機構も、安全にかかわる情報収集とその共有化に努力を重ねるようになった。もとより、制度ができても、医療界が本気で取り組む機運をつくり出し、そのための人材の養成や確保に努力を重ねなければ、画餅(がぺい)にすぎないが。
航空業界では、過誤や事故、不都合などが起こったとき、民事はともかく、当事者の責任を刑事的に追及することよりも、第三者機関の調査によって起こったことの詳細を正確に把握し、将来同じような状況を防止できるようシステム上の対策を立てることに活用すべきだ、という考え方が国際司法の間で定着しつつある。
それを教訓に、医療界でも、第三者調査機関の可能性が検討されるようになった。それにも医師側からの反発が大きくて、なかなか実現されない状況にあるにしても、問題意識は明らかに改善されつつある。また、裁判でなく話し合いでの和解を目指すADR(訴訟外紛争処理)という論点も、浮上してきている。
そうした方向をすべての当事者が確認し、実効あるものにするに当たって、過渡期的に、過誤が刑事として問題化されることも、やむを得ない側面もある。航空機業界の歴史でも、そうであった。
「暗黙の支持」
そういう状況にあって、医療界にいくつかの刑事事件が生まれた。それらが刑事に当たるかどうか、当然議論のあるものもある。裁判上は無罪になった事例もあるから、なおさらだろう。しかし、ここで問題にしたいのは、そうした事件にかかねる人々(被害者、報道者、支持者、検察など)に対して、ネット上で、医師(とおぼしき人々)が、想像を絶する罵言雑言(ばりぞうごん)を浴びせかけている、という事実だ。
鳥集徹氏の「ネットで暴走する医師たち」(WAVE出版)は、そのありさまを克明に伝えてくれる。被害者の訴えに同情的な発言をした医師へ「U(実名)は日本の全ての医師の敵」 「Uとその家族を皆殺しにする勇者募集中!」などの言辞が浴びせかけられる。被害者やその家族が問題人物であるという虚報を垂れ流す。「フールでない」はずの、人一倍理性ある知識人であるはずの医師たちから発せられる言葉とは、およそ信じられないほどだ。
もちろんこうした言辞を弄(ろう)する医師は、数から言えばごくわずかだろう。苦々しく思う医師も多いと信じたい。しかし医師の間に暗黙の支持が広がっていることも、鳥集氏は見逃していない。医師たちにすれば、黙って批判にさらされるばかりの自分たちの鬱屈(うっくつ)が暴発しているのだ、と言いたいのだろう。しかし、どう弁護しても、このような言動が正当化される余地はない。
同時に、しかしネットという媒体がなかったら、いくら鬱屈した医師たちでも、こんなひどい言動はしないだろう。そう考えると、ネットという媒体の持つ問題点も浮かび上がってくる。
ネットのある種のサイトは、便所の落書きと同じだと割り切るほかはないのか。自己管理の強化が切に望まれる。
(以上、北海道新聞より引用)
■ ■
医療従事者以外の方は、
病院で医療事故?と思われるかも知れません。
逆に医療従事者の方は…、
事故がないのが不思議?と、
感じることも多いと思います。
私は北海道内の何箇所かの…
500床以上の大病院に勤務しました。
医療事故がなかった病院はゼロでした。
■ ■
私の日記は…
医学生や医療関係の方にも
読んでいただいています。
新聞を読む習慣がない、
若い医療関係者や、
医学生、
看護学生さんなどに、
この村上先生の文章を読んでいただきたくて…
長い文章を引用させていただきました。
■ ■
2008年8月9日の美容外科価格破壊の弊害
2008年12月30日の医者は横暴?
の日記にも医療事故について書いてあります。
偏差値が高くて、
優秀な成績で有名国立大学医学部へ入学し、
一発で医師国家試験に合格した‘先生’でも、
一瞬にして医療事故を起こします。
卒業した大学とか…
成績とか…
は関係なく医療事故が起こります。
■ ■
私たちはフールです。
ミスを犯す生きものです。
学会でも…
『私はこんな失敗をしました…』
なんて発表はしません。
医局制度があった頃は…
あの先生でも…
こんなことがあった…と
先輩から口伝えに教えられたものです。
■ ■
経験を積んだ医師が上手なのは…
自分や
他人の
失敗からたくさん学んだだけです。
私も同じです。
偉そうなことは言えませんが、
ネットで暴走したりしないで、
真摯(しんし)に聴く耳を持つことが、
一番大切だと思います。