医学講座
激安と安全2015
私がこの院長日記の中で好きな言葉があります。
それは朝日新聞の天声人語で知った、
臆病者と言われる勇気です。
2009年7月19日の朝日新聞朝刊です。
よく思い出す文章です。
ドイツのLCCの墜落でまた考えました。
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▼1966年、日本の空は大事故が相次いだ。3月にはカナダの旅客機が濃霧の羽田への着陸に失敗して炎上し、64人が犠牲になった。その事故の直前に、羽田への着陸を断念して福岡に向かった日航機があった。
▼ハワイから飛んできた瀬戸号である。降りるにはぎりぎりの気象だった。2度着陸を試みたが滑走路がよく見えない。安全に自信の持てなかった機長は行き先を変更する。東京を目の前にしての事態に、乗客からは落胆の声が上がったそうだ。
▼福岡での入国手続きが手間取ったために不満は募った。だが、機内で待たされてロビーに出た乗客はそこで、炎上するカナダ機のテレビ映像を目にする。不満は一転して機長への感謝に変わっていったという。
▼そして、「臆病者と言われる勇気を持て」という格言が航空界に広まっていった。人間や、人間の造った文明をひねりつぶすことなど、自然には造作もない。空に限らず海でも山でも、謙虚な勇気が必要な時は少なくないはずだ。
(以上、朝日新聞より引用)
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航空業界は競争が激しいです。
瀬戸号の機長さんがいらした日本航空も倒産して、
新しい会社に変わりました。
スカイマークも2015年2月に民事再生法の適用を東京地裁に申請しました。
3月1日に株式の上場を廃止しました。
世界中の航空会社が、
格安で大変です。
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私は、
激安
と
安全
は
両立が難しい
…と考えます。
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医療機関にも同じことが言えます。
日本の国公立病院で赤字ではない病院は、
数えるほどしかありません。
黒字に見える病院も、
多額の補助金や、
一般会計からの援助を受けています。
病院経営は楽ではありません。
■ ■
ごくふつうの市民は、
公立病院で、
経営が問題になっているとは、
ご存知ないと思います。
多くの公立病院の院長は、
いかに病院を黒字にするかで悩んでいます。
赤字の病院は要らないと議会で追及されます。
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大きな病院で部長会議というようなのがあります。
診療科長会議とかいろいろな名称で呼ばれます。
どんなことが議題になるかというと、
いかに病院の収入を増やすか?
いかに病院の赤字を減らすか?
いかに病院の経費を減らすか?
こんなことが議論されます。
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臆病者の機長さんが、
着陸をあきらめて、
羽田から福岡へ向かうと、
航空会社は大損をします。
乗客の宿泊費や、
福岡から羽田までの便の手配も必要です。
福岡まで飛んで行く燃料費もかかります。
■ ■
悪天候でも、
かなり無理をしてでも、
強行に着陸してくれる機長さんだと、
会社の負担は減ります。
病院も同じです。
もうかる手術を、
たくさんやってくれる先生は、
病院の黒字に貢献します。
■ ■
何分説明しても、
一時間かけて説明しても、
再診料しかもらえないのに、
親切丁寧に説明する先生は、
病院の赤字を増やします。
リスクが高い手術はしない先生は、
病院を黒字にはできません。
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美容外科はもっと顕著です。
多くの美容外科は相談無料です。
高い広告宣伝費をかけて、
ようやく来たお客さんに、
あなたはワキガではありません
手術は必要ありません
…なんて説明したら、
チェーン店の本部から罰金が来ます。
■ ■
私は、
あなたはワキガではありません
手術は必要ありません
…と説明することがよくあります。
涙を流して、
私ずっとワキガだと思ってました
…と言う人もいます。
相談無料のチェーン店に行ったら、
あなたは重症のワキガです
すぐに手術しましょう
…と言われていたと思います。
私は悪天候でも、
無理に着陸する飛行機には乗りたくありません。
美容外科でも必要がない手術はすすめません。