医療問題

72.1%の病院が労基法違反

 昨日の医師と労働基準法についてのつづきです。医療法で‘病院(20床以上のベッドがある医療機関)’には当直医が勤務することが義務付けられています。例外的に病院と院長の自宅が同一敷地内にある場合は、宅直(タクチョク)といって自宅で当直をすることが認められますが、原則は病院の当直室で勤務です。当直医は夜間も入院患者に対応しなければならないので宅直でも晩酌はできません。
  大学病院は各診療科毎に当直医がいますが、一般病院では、20床の個人病院から1000床を超える大病院まで、最低一人の当直医が当直をしています。問題になるのは100床以下の病院です。病院の種類(救急患者を扱うか?老人病院か?など)や規模によって、医師の定数が法律によって決められています。ベッド数が少なければ医師定数が3人でも病院として認可されます。
 ところが、3人で当直を回すとなると一ヵ月に最低10回は当直勤務です。ここで労働基準法に引っかかることになります。昨日も書きましたが、労基法では当直は週一回、日直は月一回が限度です。こうなると3人しか医師がいない病院は‘絶対’に違反になります。
 厚生労働省HPを調べたところ、厚労省でもこの問題を検討していることがわかりました。平成17年4月25日に行われた第4回医師の需給に関する検討会議事録が検索できました。読むのがイヤになる位、長い冗長な文章です。
 この中に労働基準局監督課の庭山監督官の答弁がありました。労働基準局では平成15年から平成16年に、全国47都道府県の596病院で監督実施を行いました。この596病院のうち何らかの法違反があったのが430病院です。違反率72.1%です。
 驚くべきとことに、この72.1%という違反率は、病院に限らずどんな事業場でもこのぐらいあると書かれていました。庭山監督官の言葉で『こういう言い方もなんですが、特別な違反率ではありません』と書かれていました。
 もし、手術の失敗率が72.1%だったら絶対に手術は受けません。返品率が72.1%だったら企業は間違いなく倒産です。労働基準法は違反するためにある法律でしょうか?
 労働基準監督署は‘署’という肩書きがつくお役所です。もし、警察署で違反率72.1%の犯罪を見逃していたら日本はとんでもない国になります。税務署が72.1%の脱税を見逃していたら日本は倒産します。
 厚生労働省は医療と労働の両方を監督する官庁です。‘女性は産む器械’と発言していた大臣もいました。政府は、もう少し医療を真剣に考えないと、参議院議員選挙で手痛い目にあうと思います。

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医療問題

医師と労基法

 私は医師になってから25年間以上、勤務医をしていました。医師は患者様の急変に備えて、一年365日24時間待期しています。昔はポケットベルでした。休日に買い物をしている時も常に携帯していました。ポケベルが鳴ると、『あぁ、昨日手術したあの患者さんかなぁ…?』なんて考えながら公衆電話を探して電話したものです。
  札幌美容形成外科を開業してからも同じように対応しています。2007年2月21日からは夜間はテープによる案内にしましたが、緊急連絡先はご案内しています。医療法による規定はありませんが、私の方針で24時間連絡ができるようにしています。
 私が学会出張などで、電話対応ができない時は職員に頼んで電話応対をしてもらっています。自分が医師として勤務していた時には、待期に対して手当が出たことはなく、特に考えもしませんでした。それが医師として当たり前だと思っていました。ところが、診療所の経営者になって立場が変わりました。社会保険労務士に相談したところ、待期は労基法施行規則第23条による断続的な宿直・日直業務に該当するので、労働基準監督署に届けを出すべきだと助言を受けました。
 厚生労働省HPには詳しい記載がないので、神奈川県商工労働部HPで調べました。宿直又は日直業務で断続的な業務とは、本務に関する労働時間に引き続き、又は休日になされる勤務の一態様であって、本務とは別個の、構内巡視、文書や電話の収受又は非常事態に備えて待機するもので、常態としてほとんど労働する必要のない勤務です。労基署長の行う許可については、①「勤務の態様」(下記のとおり)、②「宿日直手当」(原則同種労働者1人1日の平均額の1/3を下らないこと)、③「宿日直の回数」(原則日直月1回宿直週1回以内)、④「その他」(宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置)の各項目の基準をすべて満たしていることが必要です。
 これを読んで医師の勤務実態と極めてかけ離れていることに驚きました。労基法では当直は週一回、日直は月一回が限度です。3人しか医師がいな病院で当直が週一回しかできないのでは医療法を守れません。今でも、大部分の勤務医は日曜出勤手当もなく、日曜日に回診に行くのが当然だと思われています。先生の都合で回診時間がずれたりすると病棟の看護師さんに怒られます。
 Dr.コトーじゃないですが、僻地の診療所に一人で勤務している医師は、休む暇もなく拘束されています。大病院の勤務医は救急当番や緊急手術をした後に、次の日も平常勤務は当たり前です。私が帯広厚生病院形成外科部長だった時にも、部下の先生を午後から帰してあげたことなどなかったと記憶しています。市立札幌病院でも同じでした。
 美しい国をつくりたい日本の首相は、現在の医師不足をなんとか解消したいと考えているようです。北海道知事も僻地の医師不足を解消しようと努力しているようです。
 もし、日本の政治家が本当に良い医療を提供しようと考えているなら、労働基準監督署に医師の勤務実態を調査・改善させて、医師にも人並みの休日を与えてください。

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日記_わきが

汗の臭い

 自分はわきがじゃないか?と悩んでいる方の中には、汗の臭いをワキガと勘違いしている方がいらっしゃいます。
  人間の体から出るものは必ず臭いがします。動物でも同じです。私がよく説明に使うたとえです。ペットショップに行くと可愛い仔犬がたくさんいます。どんなに可愛い仔犬でもおしっこをすると臭います。ペットショップでは頻回にシーツを交換して対応しています。人間もふつうの汗でしたら制汗剤で十分に対処できます。
 ワキガの方はほぼ100%耳垢が湿っています。耳垢が湿っていても、ワキガの臭いがしなければ手術の必要はありません。
 私が子供の頃は、家にお風呂がない家庭もたくさんありました。風呂に入るのも毎日ではありませんでした。銭湯には必ず定休日があり、昔の札幌では確か月曜日でした。風呂に入れない日は体を拭くだけで済ませたものです。
 今の時代は学生さんでも、バス・トイレつきのマンションが当たり前です。毎日、必ずシャワーに入りシャンプーもします。
 これだけお風呂やシャワーがあっても臭いが気になる人は手術を受けると快くなります。ただ、何度も書いているようにワキガ手術は簡単ではありません。手術後に安静にしていないと必ずキズが残ります。
 心ない美容外科では、単に汗の臭いが気になって相談に来ているだけなのに『あなたはワキガです』と‘診断’して手術を薦めるところがあります。広告宣伝費を一ヶ月に何百万円もかけているところは、せっかく来た‘お客様’を逃すわけには参りません。必要がない手術を薦めてお金をとるところがあります。
 美容外科が他の診療科より低く見られるのは、こうした業界の体質によると思います。私も残念に思いますが事実です。どこのクリニックがよいか見分けるのは本当に難しいことです。汗の臭いとワキガの臭いは違います。心配でしたら相談にいらしてください。

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形成外科に対する想い

 ここ数日の日記を読み返してみました。IBM健康保険組合を厳しく追及しているように感じました。別にIBMのHPに文句があるわけではありません。私が25年以上経験してきた形成外科が正当に評価・理解されていないことに対する怒りです。
  形成外科は英語のPlastic Surgeryを訳して作った日本語です。同じ漢字を使う中国語では、Plastic Surgeryは整形外科です。日本の整形外科は中国語では骨科です。こちらの方がわかりやすいと思います。
 形成外科ってどんな科?と聞かれて、即座に正しく答えられる先生や看護師さんはあまりいらっしゃいません。美容外科と形成外科の違いもはっきりしない方が多いと思います。
 美容整形という日本語があります。美容形成とは言いませんね。簡単に言うと形成外科は健康保険が使える科、美容外科は保険が使えない科です。
 私が形成外科医になった昭和55年には、北海道で形成外科があったのは、北大病院、旭川厚生病院、美唄労災病院、釧路労災病院の4施設だったと記憶しています。
 当時は、北大に北海道中から患者様が集まり、手術を受けるまで3年待ちなんていうのもザラでした。ヤケドで指が動かない患者様、交通事故で顔にひどいキズが残っている方、生まれつきの病気で早く手術を希望されている方などなど…。
 当時は札幌医大でも旭川医大でも形成外科の講義はなく、医学部を卒業しても形成外科とはどんな科か知らない先生がたくさんいました。
 年配の先生でも形成外科を知っている方は少なく、私たちが保険診療をして手術料を請求しても、これは不適切だと査定されたことが何度もありました。
 北大形成外科の先輩は、講演会などを通じて形成外科はどんなにすばらしいかを機会あるごとに啓蒙していかれました。一度でも形成外科のすばらしさを理解していただけると、形成外科に対する偏見はなくなります。
 人間で一番大切なのは心の中身で外見は二の次という意見もあります。でも医学の進歩で外見をよくすることができるようになりました。
 美容外科に保険がきかないのはもっともですが、形成外科に使うお金は決して医療費の無駄遣いにはなりません。外見がよくなれば心もより強くなれます。
 医学生や医師の中には、形成外科をちょっとかじって、お金儲けのために美容外科医になろうという人もいます。
 本物の形成外科医はキズを治すのに命を懸けています。形成外科も美容外科もお金儲けだけを考えていると絶対に長続きしません。

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医学講座

小耳症と永田悟先生

 5月6日に小耳症(ショウジショウ)という生まれつき耳がない病気について記載しました。実は、この小耳症の子供さんに耳をつくるのは、形成外科の中でも最も難しい手術と言われています。大学病院の有名な先生がした手術でも不満足な例があるのが小耳症です。
  日本に小耳症手術では世界一の先生がいます。日本国内より海外で有名です。PRSという形成外科では世界一の雑誌に何度も論文が掲載されました。海外で手術のデモンストレーションを何度もなさっていらっしゃいます。
 その先生が永田悟(ナガタサトル)先生です。今回、小耳症のことを書いたので永田先生を想い出して検索してみたところ、埼玉県で開業されたことを知りました。
 ここが永田先生のHPです。Microtia(マイクロシアと発音します)とは英語で小耳症のことです。アドレスのhttp://www.nagata-microtia.jpは外国人医師が見てもすぐに永田先生だとわかります。
 永田先生の手術はNagata-method(ナガタ-メソッド)として世界的に認められています。日本人の名前がついている手術で、これほど世界的に有名な手術はありません。間違いなく世界一です。
 小耳症は頻度が少ない耳の形態異常です。確かに、耳がなくても日常生活に支障はないかもしれません。自分の子供が生まれて、もし耳がなくて、幼稚園や小学校で‘耳なし○○’といじめられたら…。
 聴覚という身体の機能にさしさわりが無くても、小耳症は健康保険で治療すべき疾患だと思います。耳つくりに命をかけているのが永田先生です。

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IBMからの回答

 日本IBM健保組合にメールを出したところ回答が来ました。以下は原文のままです。‘保健’と書いてありますが正しくは‘保険’です。
  日本アイ・ビー・エム健康保険組合の○○と申します。この度は、当健保ホームページ記載の内容に関し、ご意見頂戴しありがとうございました。
 早速ですが、ご指摘の掲載について当健保といたしましては、産業医の意見等も参考に、「日常生活にさしさわりのないものは、保健適応外となる」という理解で例示しております。
 ”日常生活へのさしさわり”の理解は、個々人によって異なることもあろうかと存じますが、「腋臭症」として、診療報酬点数の算定が可能である一部の「わきが」治療が、保健適応として申請された場合は、個々の事例に従って処理をすすめております。
 ありがとうございました。
 日本アイ・ビー・エム健康保険組合(IBMJ-HIA)
 わきがで悩んでいる方は、制汗剤をつけて、毎日朝と夜に必ずシャワーに入って、制服は家に持ち帰って洗濯して、他人に気づかれないように常に注意して、それでどうしても対処できないので勇気を出して美容外科を受診します。
 ‘日常生活に支障がある’わきがだけに保険を適応するのは間違いではありません。ただ‘個々の事例に従って処理’するのでしたら、いちいちIBM健康保険組合に出向いて、保健師や産業医にワキの臭いを嗅いでもらって、『ハイあなたは、重症のわきがで日常生活に支障があるから保険を使ってOKですよ』と判定してもらうのでしょうか?
 保険適応にするかどうかは診療に当たる保険医の判断で可能ですが、保険医が健康保険組合に手術料を請求しても、最終的に健康保険組合が‘適応外’だからと判断して手術料金を払わないことが考えられます。
 健康保険組合で実際の業務に携わる、保健師、産業医の方にはもう少し形成外科について知って欲しいと思いました。是非、日本形成外科学会HPをご覧になってください。
 ワキガ手術に日本人が使っているお金は膨大な金額になります。大多数は自由診療の美容外科で手術を受けています。中にはとんでもないクリニックもあります。
 社員の健康を守るのが保健師の仕事です。わきがで悩んでいる人の声に少し耳を傾けてください。

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顔のケガと健康保険

 日本IBM健保組合HPに‘けがの処置のための整形手術’は健康保険でかかれると記載があります。一見もっともなようですが、実は大きな問題があります。そもそも整形手術という項目が保険に収載されていません。
  私たち保険医が保険診療をする際は、国が決めた方針に基づいて診療を行います。『医科点数表の解釈』という本が社会保険研究所というところから出されています。一般の方でも大きな本屋さんで購入できます。
 この中に手術料という項目があります。皮膚・皮下組織や形成などの項目ごとに細分化されています。たとえばK219眼瞼下垂症手術 1眼瞼挙筋前転法7,200点というぐあいです。これは眼瞼下垂症手術を眼瞼挙筋前転法という手術法で行った場合、片目が\72,000ですよ。という意味です。盲腸の手術はK718虫垂切除術6,210点、\62,100です。盲腸の手術でしたら全身麻酔の料金や入院料、薬剤料がかかるため請求金額はもっと増えます。
 法律でこの医科点数表にない手術は保険診療ができないことになっています。先ほどのけがの処置のための整形手術はありません。
 唯一、それに近い手術がK010瘢痕拘縮形成術 1顔面9,740点です。ただ、これには注釈がついていて、単なる拘縮に止まらず運動制限があるものに限り算定する。と記載されています。簡単に言うと、目が引きつって閉じることができないとか、口が開けないという程度のキズでないとダメということです。
 他人につけられてしまった、キズはたとえ軽微なものでも‘ちゃんと治してください’と言いますね。この軽微なキズは、そもそも健康保険で治すという前提がないために診療報酬点数表にありません。点数表にない手術は保険診療ができないのが原則です。
 実際に診療していても困ります。特に自由診療ができない公立病院や国公立大学の附属病院で困ります。日本形成外科学会では、運動制限がない瘢痕は皮膚良性腫瘍摘出術で算定すると回答していますが、事故で腫瘍ができることは通常考えられないため医療現場では混乱します。早く関係法令を改正していただきたいと思います。

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形成外科と健康保険

 昨日、日本IBM健保組合HPでワキガ、身体の機能にさしさわりのない先天性疾患(小耳症、四肢奇形など)は保険適応にならないと記載してあるのは誤りと書きました。IBMのHPでは奇形と記載していますが、‘奇形’という言葉自体が差別用語になり、HPにふさわしくないと思います。正しく書くなら四肢(指趾)の形態異常です。私が形成外科医になった頃は、小耳症(生まれつき耳がない病気)は保険に収載されていませんでした。正式には保険がききませんでした。
  日本形成外科学会HPにも記載されていますが、私たちの先輩が大変なご苦労をなさって、形成外科に対する保険適応を拡大しました。小耳症は、ある患者さんが『ぼくに耳をください』という手紙を厚生大臣に出して、新聞社が取り上げてくれてから保険が適応されるようになったと聞いています。
 生まれつき指がくっついている、指が一本多い。などの先天性の病気があります。これらも合指症手術、多指症手術として保険に収載されています。つまり保険がききます。身体の機能にさしさわりがあるかどうかの判断は不要です。ちゃんと走れるから、ちゃんと歩けるから、あなたの足趾が一本多くても保険で手術ができません、とは形成外科医だったら‘絶対に’言いません。IBM社員の子供さんが保険で手術を受けようとして、IBM健康保険組合から文句を言われたら裁判を起こせば勝てます。
 私が医学部や看護学校で講義を担当した時に、ワキガは保険で手術できる。○か?×か?というテストをすると、ほぼ100%の学生が間違います。講義でワキガは保険適応になると話しても、しっかり聴いていない学生は間違います。
 他人が気にならないような軽微なキズは確かに保険で治す必要はありません。しかし、もし交通事故などで誰かにつけられたキズだったとすると、どんなに目立たないキズでも治せるものは治してくださいと言われます。車だってそうですから人の顔だったらなおさらです。
 キズも健康保険が適応にならなければ自由診療になります。自由診療はそれぞれの診療所や病院が自由に料金を決めることができます。
 ブラックジャックじゃありませんが、私が手術すればキズ1㎝治すのに100万円ですというのも合法です。保険にない手術は保険請求できなので任意保険で治すにしても、とてつもない料金を請求されることが考えられます。
 ワキガ手術は保険外だと思ったIBM社員の方は、100万円もする診療所へ行って騙されるかもしれません。社員のためにもワキガ手術は健康保険で治した方がいいと私は思います。IBM健康保険組合の方には、是非考えていただきたいと思います。

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医学講座

眼瞼下垂症と保険適応

 眼瞼下垂症は‘病気’なので保険適応になります。と昨日記載しました。どの程度の眼瞼下垂なら保険適応になるのでしょうか?というお問い合わせをいただきました。
  どの程度だったら保険適応になるか?という厳密な規定は現在のところございません。保険医の判断に委ねられているのが現状です。ただ、保険医も監査や審査を受けますので、いい加減な診療をしていると保険医を取り消されます。
 陥没乳頭手術は注釈に‘授乳障害のある陥没乳頭に対して乳頭形成を行った場合に算定する(保険の対象になる)’と規定があります。ところが眼瞼下垂症には注釈がありません。
 保険適応になるかならないかは国が決めた決まりがあります。健康保険で治療を受けられる病気やけがとは、保険医が診療の必要を認める状態をいいます。ですから、単なる疲労とか、美容整形、正常なお産、健康診断などは、健康保険では診療できません。ただ誤解も多く、知らないと損をします。こちらのIBM健保組合HPの記載も誤っています。ワキガ、小耳症、四肢(指趾)の先天異常はいずれも保険適応になります。
 札幌美容形成外科を開業して間もない頃でした。あるご婦人が眼瞼下垂症手術を希望なさって来院されました。そのご婦人は片眼が義眼でした。両眼とも眼瞼下垂症があり、見えるほうの目で見ても瞼が下がって明らかに見にくそうでした。そのご婦人は、以前別の病院で眼瞼下垂症手術を受けたことがおありでした。
 私は大変申し訳ありませんが、義眼の目は保険適応になりません。と申し上げました。眼瞼下垂を手術して治しても視力が改善して見えるようにはならないからです。
 その方は、以前別の病院で手術を受けた時には、義眼の目も保険で眼瞼下垂症の手術を受けられたので聞いて欲しいといわれました。私は北海道社会保険事務局に内議(問い合わせ)をしました。担当の先生は、眼瞼下垂症で肩こりや頭痛などの症状があり、社会通念上、手術が必要と認められれば、保険適応にして構わないと回答してくださいました。保険の審査でも特に問題はありませんでした。
 私は、眼瞼下垂症の手術適応は、①アゴを上げてモノを見ている。②正面を見た時に、瞳孔が睫毛や瞼で隠れて視野が狭くなっている。③肩こりや頭痛など眼瞼下垂による症状がある。などを総合的に判断して保険適応を決めています。
 保険適応の判断は都道府県によっても異なります。一般的に大学病院や総合病院の形成外科は保険適応にしてくれると思います。日本形成外科学HPなどでお近くの認定施設を探して相談なさってください。

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医療問題

眼瞼下垂症とコンタクト

 眼瞼下垂症はコンタクトレンズと関係があります。コンタクトは眼球の上に薄いレンズを置いて視力を調節する医療機器です。ご存知のようにコンタクトにはハードとソフトの2種類があります。ハードの方が厚みがあります。
 腕時計を思い出してください。パネライやロレックスのような厚い時計をしてセーターを着ると時計の部分が盛り上がります。薄型の腕時計でしたらあまり気になりませんが、時計が厚ければ厚いほど盛り上がります。
 同じセーターを着続けたとします。時計が当たった部分のセーターの袖は薄くなりますね。しまいには時計の部分に穴があいてしまいます。
 目も同じです。私たちの瞼は一日に何回もなんかいもまばたきをします。目の上を瞼が往復します。その時、眼球の上にコンタクトがのっかっていると、その部分はちょうど厚い腕時計をしてセーターを着たのと同じになります。長袖のシャツでも同じです。
 気に入ったシャツを長く着ていると一番先に傷むのが袖ですね。時計が当たっていると早く傷みます。瞼を開ける筋肉はとても薄いのです。その膜のように薄い筋肉がハードコンタクトやソフトコンタクトで傷みます。
 実際にコンタクトレンズで眼瞼下垂症になった方を手術すると、ちょうど穴のあいたセーターのように筋肉が薄くなっています。その穴を繕う(ツクロウ)ように手術で筋肉を治します。何度もできる手術ではありません。
 コンタクトレンズは眼科の先生の指示ではじめて装着できます。眼科の先生かどうかもわからないアルバイトの先生に適当に診てもらってコンタクトを買うのは危険です。カラコンをディスカウントストアーで買って診察も受けないで使うのはもっと危険です。カラコンは医療機器ではないので、規制もなく何の保障もありません。通販で購入したカラコンでひどい炎症をおこしていた人もいました。
 便利でおしゃれなコンタクトも使い方を間違えると取り返しがつかないことになります。目は大切なたいせつな器官です。年をとっても目が見えるように、自分で目を守ってください。

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