医学講座

患者さんのお通夜

 札幌美容形成外科を開業して13年が過ぎました。
 一番ありがたいことは、
 大きな事故がなかったことです。
 形成外科や美容外科で死亡事故は禁忌です。
 開院以来死亡事故ゼロ
 …と大きくHPに書いてあった美容外科チェーン店、
 ある時からその開院以来死亡事故ゼロが消えました。
 業界では、
 ついにあそこも……と言われました。
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 死亡事故を起こした先生は、
 おそらく一生忘れないと思います。
 でも、
 亡くなった患者さんのお通夜には、
 行っていないと思います
 私自身は死亡事故を起こしたことはありません。
 美容外科で起きた事故で亡くなった患者さんは見たことがあります。
 私が見た時には意識はありませんでした。
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 私が形成外科を選んだ理由の一つが、
 患者さんが亡くなることが少ないと思ったからです。
 でも、
 実際に北大形成外科で働き始めると、
 重症熱傷の患者さん、
 悪性腫瘍の患者さん、
 数は少ないですが患者さんの死がありました。
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 北大形成外科でチーフレジデントをしていた時です。
 手術した患者さんが、
 手術した日の夜に急変して、
 お亡くなりになったことがありました。
 私が6ヵ月の病棟チーフで、
 一番つらい経験でした。
 今でもよく覚えています。
 手術が原因ではありませんでした。
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 その日の形成外科当直医はベテランのN先生でした。
 気管内挿管もできるし、
 レスピレーターも使える先生でした。
 患者さんはナースステーション横の、
 リカバリールームにいらっしゃいました。
 夜勤の看護師さんが異変に気付いて、
 すぐに当直医がかけつけて手当をしました。
 私も自宅から深夜に北大病院までかけつけました。
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 残念なことに患者さんはお亡くなりになりました。
 死因は急性心不全でした。
 手術との関係はありませんでした。
 先輩の吉田哲憲先生(当時は形成外科講師)、
 医局長の松本敏明先生もいらしてくださり、
 患者さんのご家族にお願いして、
 病理解剖をさせていただくことになりました。
 手術をした日の夜に亡くなるなんて、
 誰も思っていませんでした。
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 病理解剖は、
 医学部の病理解剖室で行われました。
 附属病院と医学部をつなぐ、
 長い渡り廊下がありました。
 私は患者さんに申し訳ないという気持ちで、
 ストレッチャーを押して病理解剖室に向いました。
 死因は何だったんだろう…?
 自分は何か見落としていた…?
 患者さんに申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。
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 病理解剖の結果、
 心臓には異常はありませんでした。
 手術との関係もありませんでした。
 それでも、
 手術した日の夜に亡くなるなんて、
 申し訳ないという気持ちが強くありました。
 霊安室からご自宅に帰る時にお見送りをしました。
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 翌日が患者さんのお通夜でした。
 私は医局長の松本敏明先生にお願いして、
 カンファレンスに出ずに、
 患者さんのお通夜に行きました。
 医局から香典も持参しました。
 ご家族に叱られるかなぁ~?
 怒られても当然だよなぁ~

 …という思いでお通夜に行きました。
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 患者さんの奥さんが、
 お父さん、
 北大病院の先生が来てくださったよ。

 …と私を祭壇の前に案内してくださいました。
 私は慣れない手つきでご焼香をし、
 お詫びしました。
 30歳くらいの若造の医者でしたが、
 患者さんのご家族は喜んでくださいました。
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 その後、私は形成外科認定医を取得し、
 釧路労災病院形成外科、
 市立札幌病院皮膚科と勤務しました。
 自分が執刀することになってから、
 自分が直接手術を担当させていただい患者さんが、
 残念ながら亡くなられたことがあります
 助けてあげられなかった…(無念)
 …という思いが残ります。
 助けてあげられなかった患者さんのお通夜に、
 何回か行ってお詫びしたことがあります。
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 医師が患者さんのお通夜や葬儀に行くことには、
 いろいろな意見があると思います。
 私が北大形成外科病棟チーフだった時にも、
 積極的に行くものじゃない?
 …と言われた先生もいました。
 でも、
 私は故人への礼儀として、
 ご遺族へのお詫びとして、
 医師が葬儀に行くことは悪いことではないという考えです。
 死亡事故を起こした先生はご家族から拒否される可能性もあります。
 たとえ拒否されても、
 葬儀に行くべきだと(私は)思います。

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