医学講座

耳あかの遺伝学

 平成20年2月19日(火)、北海道新聞夕刊の記事です。
 耳あかの遺伝学
 病気や薬の利き方にも差
 北海道医療大
 個体差健康科学研究所長
 新川詔夫(ニイカワ ノリオ)さん
      ■         ■
 耳あかのタイプの違いから、
 薬の利き方や遠い過去の民族同士のつながりまで推測できるのだという。
 「人類遺伝学」の第一線で研究を続けてきた
 北海道医療大学の新川詔夫特任教授に、
 耳あかと遺伝子の不思議な関係を語ってもらった。(古家昌伸)
      ■         ■
 「あなたの耳あかは湿っていますか。乾いていますか」。
 こんな問いを何度となく繰り返してきた。
 日常生活ではとるに足らない耳あかが、
 遺伝学では有用な情報をもたらしてくれる。
      ■         ■
 耳あかに湿型と乾型の2タイプあり、
 それが遺伝することは知られていた。
 タイプの違いがどの遺伝子によって生じるかを、
 長崎大在職当時の2006年、同僚の研究者とともに明らかにした。
      ■         ■
 タイプを決める遺伝子を調べ始めた契機は、
 ある遺伝性疾患に関する研究で
 「この症状の人は耳あかがベトベトしている」
 という患者の家族の言葉を伝え聞いたこと。
 「耳あかのタイプ決定遺伝子が疾患と連鎖している(密接な関係がある)と直感した」。
 協力を得て家系図を調べると、やはり予想通りだった。
      ■         ■
 異なる情報を特つ遺伝子が染色体上で近接していると、
 一緒に子孫に伝わることが多い。
 この特徴をヒントに、耳あかのタイプは、
 23本あるヒト染色体のうち16番目の染色体上に存在する
 「ABCC11」と呼ばれる遺伝子が決めていることを突き止めた。
      ■         ■
 「人類の祖先の耳あかは湿型で、遺伝的には湿型が優性。
 ところがこの遺伝子の538番目の塩基(グアニン、G)が
 他の種類(アデニン、A)に偶然変わったことで、
 乾型の耳あかを持つ人が生まれてきた」。
 両親から受け継いだ遺伝子がGとG、
 またはGとAだと耳あかは湿型に、
 AとAだと乾型になる。
      ■         ■
 耳あかは汗と同様にアポクリン腺が作り出すので、
 そのタイプは汗や体臭にも影響する。
 また、分子レベルで見ればABCC11遺伝子自体は
 細胞に入った物質を外に排出する機能を持っており
 薬の利き方や副作用の個人差を生む。
 この点に注目するのが個体差健康科学という学問だ。
      ■         ■
 多くの民族を調べた結果、
 こうした異なる遺伝子タイプの構成比が
 民族や集団で異なることも分かった。
 アフリカや欧州はほぽ100%湿型(一般型、祖先型遺伝子)だが、
 日本をはじめ東北アジアの集団は8割以上が乾型(東アジア型遺伝子)だ。
      ■         ■
 この割合を世界地図に示すと、
 「バイカル湖あたりで遺伝子タイプが変わったらしい」
 ことまで推測できる。
 並行して、
 理科系教育に力を入れる
 文科省のスーパー・サイエンス・ハイスクール指定高校の協力を全国的に得て、
 国内の耳あかタイプ地図作りも進めてきた。
      ■         ■
 「日本でも地域によりタイプの比率が異なり、
 民族や集団の動きとの関係をうかがわせる。
 将来、高校生が作った耳あかタイプの地図が、
 日本史の教科書に裁ったら面白い」と話す。
      ■         ■
 新川詔夫(にいかわ・のりお)
 1942年、小樽生まれ。
 北大医学部卒。
 北大病院小児科に勤務後、
 スイス・ジュネーブ州立大を経て北大医学部助手。
 先天異常症を中心に研究し、
 1984年から長崎大医学部教授。
 2007年6月に定年退職し、現職。
 日本人類遺伝学会前理事長。
      ■         ■


 湿型といってもぬれているわけではなく、
 松脂やハチミツ状のもの。
 意外に誤解も多い
 と話す新川教授


 耳あかタイプの世界地図。
 各地の円グラフは黒が湿型、
 白が乾型の比率を表す
 (以上、北海道新聞より引用)

      ■         ■

 新川教授は、北大43期(昭和42年卒)。
 私が北大形成外科で研修医をしていた頃は、
 北大小児科にいらっしゃいました。
 形成外科では、
 生まれつきの病気をもった子供さんがたくさん手術を受けます。
      ■         ■
 お母さんの不安や心配は、
 『この子に、異常があったのは、私のせい?』
 『どうして?、どうして?』
 『神様は、こんなむごいことをしたの?』
 『かわいい、赤ちゃんに…』
 『どうして?』
 『私の赤ちゃんだけ、手術を受けなければならないの?』
      ■         ■
 このように、赤ちゃんの手術をする前に、
 パニックになってしまった、
 お母さんを‘治療’してあげる必要があります。
 その時にお世話になったのが、新川先生でした。
 遺伝学的にみて、
 この子の異常はお母さんのせいでも
 お父さんのせいでもありません。
      ■         ■
 もし、次の子を授かったとします。
 その時に、
 同じ症状が発現する可能性は○○%です。
 などという、遺伝相談も新川先生にお願いしていました。
 穏やかで優しい先生です。
 遺伝性の病気で悩んでいる方は、
 新川先生にご相談なさることをおすすめします。
      ■         ■
 耳垢は、ワキガと関係があります。
 耳垢が湿っている方すべてが、
 ワキガ臭がするのではありません。
 アポクリン腺が分泌する物質を細菌が分解して
 臭い、ワキガ臭となります。
      ■         ■
 ワキガの方を診察すると、ほぼ100%耳垢が湿っています。
 湿っている程度も人それぞれです。
 ワキガ臭の程度も個人差があります。
 アジア圏では、乾いた人が多いので、気になるのです。
 ヨーロッパでは、湿った耳垢が‘標準’です。
 欧米の教科書には、ワキガという言葉が見当たりません。
 耳垢が湿っていて、臭いが気になる方は、
 診察にいらしてください。
 保険適応で手術が可能です。

“耳あかの遺伝学”へのコメントを見る

TEL 011-231-6666ご相談ご予約このページのトップへ