医学講座
熱傷浴室(ねっしょうよくしつ)
さくらんぼさんから
熱傷浴室(ねっしょうよくしつ)について、
ご質問がありました。
やけどに効く温泉について、
お聞きになったことがあると思います。
ある種の温泉は、
やけどに効きます。
生理的食塩水(0.9%)と同じ濃度の食塩水は、
キズにしみません。
生理的食塩水は、
目に入っても、
鼻に入っても痛くありません。
■ ■
やけどをすると、
皮膚がただれて、痛みがあります。
キズからは滲出液(しんしゅつえき)という
黄色の液体が出てきます。
皮膚というバリアーがなくなるので、
ばい菌が悪さをして化膿することもあります。
生理的食塩水で、
キズをキレイに洗い流すと、
ばい菌の数が減ります。
痛みもなく、キズをキレイにできます。
これがやけどの温浴療法(おんよくりょうほう)
の原理です。
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やけどの患者さんにとって、
ガーゼ交換や、
キズの処置は、
痛くてつらいものです。
特にキズにガーゼが固着(こちゃく:くっつくこと)てしまうと…
はがす時に血が出たりして、
それはつらいものです。
生理的食塩水で濡らしてから、
ガーゼを剥がすと痛みも無く、
ばい菌を洗い流して、
キズをキレイにすることができます。
■ ■
やけどだけではなく、
他のキズの処置でも、
生理的食塩水で洗うことは、
キズにとってよいことです。
小さなキズややけどでしたら、
ベッドサイドや
洗面器を使ってもできます。
問題なのは…
全身の大やけどです。
ベッドの上で処置をすると、
水浸しになります。
■ ■
そこで考えられたのが、
熱傷浴室でした。
やけどの患者さん用のお風呂です。
ステンレスでできていて、
横になったまま入れます。
お湯1㍑に対して、食塩を9㌘入れます。
そうすると、
生理的食塩水と同じ0.9%の濃度になります。
このお風呂でやけどのキズを洗い、
軟膏処置をするのが、
形成外科研修医の仕事でした。
■ ■
私が形成外科医の卵になった、
約30年前は、
私の仕事はやけど患者さんの風呂入れでした。
白いゴム長を履いて、
茶色のゴムの長い前掛けをつけて、
看護婦さんといっしょに、
一日、数人の処置をしたこともありました。
熱傷浴室は、
寝たまま入れるお風呂なので、
寝たきりで動けない方の、
入浴にも使っていました。
■ ■
ところが…
30年の間に時代は変わりました。
院内感染の原因として、
この熱傷浴室が問題になりました。
キズを洗い流すのは、
今でもよい方法なのですが、
MRSA(えむあーるえすえい)や
多剤耐性緑膿菌などが、
熱傷浴室で感染して問題となりました。
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日本では、
まだ熱傷浴室を使っている施設が多いと思いますが、
一部の救命救急センターでは、
感染の問題から廃止してしまったところもあります。
ご自宅で、
お湯1㍑に対して、食塩を9㌘入れて、
それをペットボトルなどに入れて、
キズを洗い流すのは、
痛くなくてよい方法です。
キズの処置として、
覚えておかれるとよいと思います。