医学講座

熱傷用ベッド

 今日はやけどの患者さん用の
 特殊なベッドの解説です。
 熱傷用空気流動ベッド
 (ねっしょうようくうきりゅうどうべっど)
 と厚生労働省の書類に書いてあります。
 私たち形成外科医は、
 エアーベッド
 Air Floating Bed
 (えあー・ふろーてぃんぐ・べっど)
 とも呼んでいました。
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 もともと米国で開発されたベッドです。
 全身に大やけどをすると、
 体を動かしただけでも痛みます。
 痛みを感じないほど…
 (神経まで焼けてしまうと痛みを感じません)
 やけどをしてしまうこともあります。
 こうなっても…
 体を動かすことができません。
 じっとしていると…
 からだ中が
 褥瘡(じょくそう:床ずれ)になってしまいます。
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 私が医師になった、
 30年前には、
 このベッドが北大形成外科にありました。
 当時で、
 一台が約1,000万円もしました。
 米国製の高級車より高価でした。
 深さ50㎝くらいの、
 箱型のお風呂を想像してください。
 その平べったいお風呂が、
 機械の上に載っているとお考えください。
 ふつうのベッドより、
 高い位置に寝るようになっています。
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 お風呂の中には、
 マットレスの代わりに、
 白い砂のようなものが入っています。
 その砂が、
 空気で流動する仕掛けになっています。
 砂の上には、
 薄い白いナイロンの布が張ってあり、
 空気で流動する砂が、
 その布の下でボコボコ動きます。
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 はじめてこのベッドに寝てみた時は、
 ちょうど海の上に寝ているような気分でした。
 機械の音が、
 ウーンと聞こえます。
 身体が
 フワフワと浮いているような感じでした。
 実際にこのベッドに患者さんが寝ると、
 フワフワしているので、
 乗り物酔いになる方がいらっしゃいました。
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 やけどの患者さんだけではなく、
 褥瘡(じょくそう)の手術後の患者さん、
 大きな手術をした後で、
 動けない(動かせない)患者さんの
 手術後にも使いました。
 価格が高いだけではなく、
 重さも約1トン近くありました。
 ですから、
 現在の市立札幌病院を設計する時には、
 そのベッドを置くスペースだけ、
 床を補強したほどでした。
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 私が市立札幌病院へ赴任した20年前には、
 北海道でこのエアーベッドがあるのは、
 限られた施設だけでした。
 ベッドは温度管理が難しく、
 寝たきりで
 起き上がることもできないので、
 痰の排出などを気をつけないと、
 術後の合併症を起こすこともありました。
 せっかくの高価なベッドが
 活用されていませんでした。
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 私が赴任してから、
 この1トンもある重いベッドを
 4階の皮膚科病棟から、
 1階の救急病棟まで、
 何度も往復させました。
 私と看護師さんが運びましたが、
 一度はお見舞いに来ていらした、
 警察署長さんに
 お手伝いしていただいたこともありました。
 懐かしい想い出の一つです。

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