医学講座
熱傷用ベッド
今日はやけどの患者さん用の
特殊なベッドの解説です。
熱傷用空気流動ベッド
(ねっしょうようくうきりゅうどうべっど)
と厚生労働省の書類に書いてあります。
私たち形成外科医は、
エアーベッド
Air Floating Bed
(えあー・ふろーてぃんぐ・べっど)
とも呼んでいました。
■ ■
もともと米国で開発されたベッドです。
全身に大やけどをすると、
体を動かしただけでも痛みます。
痛みを感じないほど…
(神経まで焼けてしまうと痛みを感じません)
やけどをしてしまうこともあります。
こうなっても…
体を動かすことができません。
じっとしていると…
からだ中が
褥瘡(じょくそう:床ずれ)になってしまいます。
■ ■
私が医師になった、
30年前には、
このベッドが北大形成外科にありました。
当時で、
一台が約1,000万円もしました。
米国製の高級車より高価でした。
深さ50㎝くらいの、
箱型のお風呂を想像してください。
その平べったいお風呂が、
機械の上に載っているとお考えください。
ふつうのベッドより、
高い位置に寝るようになっています。
■ ■
お風呂の中には、
マットレスの代わりに、
白い砂のようなものが入っています。
その砂が、
空気で流動する仕掛けになっています。
砂の上には、
薄い白いナイロンの布が張ってあり、
空気で流動する砂が、
その布の下でボコボコ動きます。
■ ■
はじめてこのベッドに寝てみた時は、
ちょうど海の上に寝ているような気分でした。
機械の音が、
ウーンと聞こえます。
身体が
フワフワと浮いているような感じでした。
実際にこのベッドに患者さんが寝ると、
フワフワしているので、
乗り物酔いになる方がいらっしゃいました。
■ ■
やけどの患者さんだけではなく、
褥瘡(じょくそう)の手術後の患者さん、
大きな手術をした後で、
動けない(動かせない)患者さんの
手術後にも使いました。
価格が高いだけではなく、
重さも約1トン近くありました。
ですから、
現在の市立札幌病院を設計する時には、
そのベッドを置くスペースだけ、
床を補強したほどでした。
■ ■
私が市立札幌病院へ赴任した20年前には、
北海道でこのエアーベッドがあるのは、
限られた施設だけでした。
ベッドは温度管理が難しく、
寝たきりで
起き上がることもできないので、
痰の排出などを気をつけないと、
術後の合併症を起こすこともありました。
せっかくの高価なベッドが
活用されていませんでした。
■ ■
私が赴任してから、
この1トンもある重いベッドを
4階の皮膚科病棟から、
1階の救急病棟まで、
何度も往復させました。
私と看護師さんが運びましたが、
一度はお見舞いに来ていらした、
警察署長さんに
お手伝いしていただいたこともありました。
懐かしい想い出の一つです。