昔の記憶
麻酔科研修の想い出⑥
高橋長雄教授を偲(しの)んで書いた、
麻酔科研修の想い出シリーズの最後です。
偉大な教育者とは、
自分がした失敗を、
いかに繰り返さないか…?
ということを正確に教える人のように思います。
想い出⑤で書いたように、
私の記憶が正しければ、
盲腸の手術で患者さんが亡くなったのが、
高橋先生を麻酔学へと導いたと思います。
■ ■
第35回日本熱傷学会④で書いた、
日本大学医学部法医学教授、
押田茂實先生の、
『医療事故知っておきたい実情と問題点』
にあったように、
医療というのは、
病気を持った人に、
大きな手術をしたり、
危険性のある薬を使うことがあります。
その結果的として…
予想外の結果が生じる場合があります。
リスクがある患者さんに麻酔をかけると…
最悪の結果となることがあります。
■ ■
札幌医大麻酔科には、
何人もの優秀な先生がいらっしゃいました。
私はそこで研修を受けさせていただきました。
私自身が研修期間中に、
危うく事故を起こしそうになりました。
麻酔科の研修を受けるというのは、
自分自身で麻酔をかけなければ覚えられません。
中には…
予想できない事態が起こることもありました。
事故を防ぐには、
不測の事態が起きた時に、
いかに対処できるかが問題となります。
■ ■
大学病院の手術部では、
同時進行で、
毎日7~8例の手術がありました。
麻酔科控え室には、
各手術室の様子がモニターTVで写ります。
患者さんの状態も、
心電図などのモニターでわかるようになっています。
その控え室には、
インチャージと呼ばれる、
麻酔科指導医の超ベテランが控えています。
何かトラブルがあると…
この先生がお助けマンとして急行してくれます。
■ ■
私を助けてくれたのは、
多汗症の交感神経節手術をしていらっしゃる、
本間英司先生でした。
本間先生は当時、留学から帰国されて、
医局長をなさっていらっしゃいました。
とても頼りになる兄貴分の先生でした。
本間先生は覚えていらっしゃらないと思いますが、
私は助けていただいたことを一生忘れません。
札幌医大麻酔科では、
私のようなトラブルが起きると、
かならずケースカンファレンスという、
症例検討会で発表していました。
■ ■
毎週行なわれるケースカンファレンスでは、
どうしてトラブルが起きたのか?
トラブルを未然に防ぐにはどうしたら良いのか?
などを詳細に調べて発表しました。
私が起こしたトラブルは、
他の先生が起こす危険性があるからです。
熱心に討論が繰り返され、
容赦ない質問が上の先生からも
下の先生からもありました。
■ ■
こうした
失敗から学ぶ
失敗を共有する
ということが、
医学の発展には必須だと思います。
札幌医大では、
今、三代目の麻酔科教授の選考中です。
もうすぐ、新教授が選ばれて…
高橋先生が築かれた札幌医大麻酔学教室は、
これからもますます発展することと思います。
先生のご冥福をこころからお祈りいたします。
先生、ほんとうにありがとうございました。