昔の記憶

麻酔科研修の想い出⑥

 高橋長雄教授を偲(しの)んで書いた、
 麻酔科研修の想い出シリーズの最後です。
 偉大な教育者とは、
 自分がした失敗を、
 いかに繰り返さないか…?
 ということを正確に教える人のように思います。
 想い出⑤で書いたように、
 私の記憶が正しければ、
 盲腸の手術で患者さんが亡くなったのが、
 高橋先生を麻酔学へと導いたと思います。
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 第35回日本熱傷学会④で書いた、
 日本大学医学部法医学教授、
 押田茂實先生の、
 『医療事故知っておきたい実情と問題点』
 にあったように、
 医療というのは、
 病気を持った人に、
 大きな手術をしたり、
 危険性のある薬を使うことがあります。
 その結果的として…
 予想外の結果が生じる場合があります。
 リスクがある患者さんに麻酔をかけると…
 最悪の結果となることがあります。
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 札幌医大麻酔科には、
 何人もの優秀な先生がいらっしゃいました。
 私はそこで研修を受けさせていただきました。
 私自身が研修期間中に、
 危うく事故を起こしそうになりました。
 麻酔科の研修を受けるというのは、
 自分自身で麻酔をかけなければ覚えられません。
 中には…
 予想できない事態が起こることもありました。
 事故を防ぐには、
 不測の事態が起きた時に、
 いかに対処できるかが問題となります。
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 大学病院の手術部では、
 同時進行で、
 毎日7~8例の手術がありました。
 麻酔科控え室には、
 各手術室の様子がモニターTVで写ります。
 患者さんの状態も、
 心電図などのモニターでわかるようになっています。
 その控え室には、
 インチャージと呼ばれる、
 麻酔科指導医の超ベテランが控えています。
 何かトラブルがあると…
 この先生がお助けマンとして急行してくれます。
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 私を助けてくれたのは、
 多汗症の交感神経節手術をしていらっしゃる、
 本間英司先生でした。
 本間先生は当時、留学から帰国されて、
 医局長をなさっていらっしゃいました。
 とても頼りになる兄貴分の先生でした。
 本間先生は覚えていらっしゃらないと思いますが、
 私は助けていただいたことを一生忘れません。
 札幌医大麻酔科では、
 私のようなトラブルが起きると、
 かならずケースカンファレンスという、
 症例検討会で発表していました。
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 毎週行なわれるケースカンファレンスでは、
 どうしてトラブルが起きたのか?
 トラブルを未然に防ぐにはどうしたら良いのか?
 などを詳細に調べて発表しました。
 私が起こしたトラブルは、
 他の先生が起こす危険性があるからです。
 熱心に討論が繰り返され、
 容赦ない質問が上の先生からも
 下の先生からもありました。
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 こうした
 失敗から学ぶ
 失敗を共有する
 ということが、
 医学の発展には必須だと思います。
 札幌医大では、
 今、三代目の麻酔科教授の選考中です。
 もうすぐ、新教授が選ばれて…
 高橋先生が築かれた札幌医大麻酔学教室は、
 これからもますます発展することと思います。
 先生のご冥福をこころからお祈りいたします。
 先生、ほんとうにありがとうございました。

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