昔の記憶

失業の経験

 医者は失業しない。
 大学教授には、失職の心配がない。
 ふつうの人は、
 こう思います。
 ふつうの人であった私も、
 自分が失業するまでは、
 職を失うと思ったことは…
 一度もありませんでした。
 大学の医局に在籍していれば…
 待遇に文句を言わなければ…
 職を失うことはありませんでした。
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 病院はつぶれない
 銀行はつぶれない
 と思われていた時代もありました。
 今は…
 病院も銀行も…
 つぶれる時代になりました。
 真面目で…
 優秀な…
 大学教授でも、
 失職の危機にさらされることがあります。
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 私は自分が職を失った時に、
 もがき苦しみました。
 職を失って、
 『明日からどうしよう…』
 と思ったのも事実です。
 それ以上に、
 裏切られたという思いと…
 気付かなかった自分は…
 何て愚(おろ)かだったのか?
 と自分が嫌になりました。
 忠告してくださった先輩もいたのに…
 もっと注意すべきだった…
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 幸いなことに、
 私はたくさんの人に支援していただき、
 再起することができました。
 高須克弥先生からいただいたコメントです。
 そうだよ
 逆境の時ほど本当の友人が発見できるんだ。
 落ち目の時は友人を見極めるチャンス。
 よかったと思いなさいね。
 ほんとうに…
 ありがたいお言葉です。
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 私が職を失ってから、
 7年になりました。
 その間に、
 中央クリニック札幌院院長→
 札幌美容形成外科の開業→
 医療法人の設立と
 あっと言う間の7年でした。
 48歳→55歳になりました。
 苦しい時代でしたが、
 失業の経験は、
 自分にとってよかったと思います。
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 人生には、
 さまざまな失敗があります。
 信じてはいけない人に騙(だま)されたのは…
 自分に…
 見分ける眼力がなかったからです。
 医師とか弁護士は、
 困っている人を助ける職業です。
 自分に困った経験がなければ、
 親身になって、
 相手の立場にたって、
 助けてあげることはできません。
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 自分が職を失って、
 唯一、気になっているのが…
 私を頼ってくださっていた、
 患者さんのことです。
 術後の経過が良い方ばかりではありませんでした。
 何度も手術をやり直した方のことが、
 今でも気がかりです。
 申し訳ないことをしました。
 ごめんなさい…
 と謝りたいです。
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 今は、
 小さなクリニックの院長です。
 私を信頼してくださる、
 患者さんや従業員を、
 裏切らないように…
 毎日、精一杯がんばっています。
 雇用を守って、
 従業員を失業させないように、
 がんばっています。

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