昔の記憶

私の顔を治してください

 市立札幌病院に勤務していた、
 ある時期のことでした。
 救急部に一人の女性が搬送されてきました。
 現在、北海道大学救急医学講座教授の
 丸藤哲(がんどうさとし)先生が、
 手術中の私のところへ、
 わざわざいらしてくださいました。
 同じ病院内で、
 救急の先生が担当医のところへいらっしゃるのは、
 よほどのことです。
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 本間先生、
 申し訳ありませんが、
 この手術が終わったら、
 大至急、救急ホールにいらしていただけませんか?
 ふだんは冷静な丸藤先生が、
 その時は、少し違って見えました。
 幸い、短い手術だったので、
 私は手術室があった2階から、
 地下の救急ホールへ向かいました。
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 救急ホールには、
 一人の若い女性患者さんが横になっていました。
 私が着くと…
 その方は…
 私の顔を治してください
 と弱々しい声で言いました。
 交通事故で、
 搬送されてきた患者さんでした。
 私はモデルをしています
 キズを治すプロを自認していた私も、
 驚くほどのケガでした。
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 将来ある若い女性の顔のケガは、
 形成外科医にとって大変難しい手術です。
 少しでも後遺障害を少なく、
 元通りに治してあげたい…。
 という思いがあります。
 ところが…
 まったく元通りにすることは、
 限りなく不可能に近いこともあります。
 自分にはできないので…
 ブラックジャックを呼びたいと思うこともあります。
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 私の顔を治してください
 と頼まれた私は、
 丸藤先生に全身麻酔をかけていただき、
 その日の予定をすべてキャンセルして、
 6時間30分をかけて、
 その女性の顔を手術しました。
 今までの形成外科医人生の中で…
 一番重症だった顔のケガでした。
 幸い、
 手術後の安静も守っていただき、
 経過も順調でした。
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 私がJA帯広厚生病院へ転勤してからも、
 修正手術を受けに、
 帯広までいらしてくださいました。
 明るく…
 前向きな性格の女性でした。
 その後は、
 年賀状のやりとり程度が続いていました。
 私は元気で働いていることを知り、
 安心していました。
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 事故から約10年が経過していました。
 私が、
 信じてはいけない人に騙されて、
 人生で一番落ち込んでいた時期に、
 一枚の葉書をいただきました。
 先生、結婚しました。
 隣にいるのは…
 毎日お見舞いに来てくれていた彼です。
 一枚の葉書には、
 結婚式の写真がついていました。
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 その写真を見て…
 私は、
 落ち込んでいて…
 一度は辞めようと思った形成外科医を
 続けることにしました。
 今、私が形成外科医を続けているのは、
 この女性からの葉書のおかげです。
 写真は本人の承諾を得て掲載していますが、
 気の弱い人は
 最後の写真を見ないでください。


結婚式の写真
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気の弱い人は
この先を
見ないでください!
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受傷時です

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