医療問題

医学教育の現場では…

 私は平成10年(1998年)から平成14年(2002年)まで、
 札幌医大形成外科の講師をしました。
 信じてはいけない人に騙(だま)されて…
 残念な形で大学を追い出されましたが、
 学生さんに講義ができた楽しい想い出もあります。
 医学教育に対する、
 私なりの思いがあります。
 ‘医学部定員増’が話題になると、
 ひとことふたことも言いたくなります。
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 2006年10月23日の、
 2回目の院長日記に、
 医学部の教育というタイトルで書いてあります。
 現在の日本の医学教育では
 内科、外科、産婦人科など国家試験に必要な科目を
 すべて勉強します。
 これは日本国中どこの医学部でも医科大学でも同じです。
 6年間に学ぶ量は膨大なものになります。
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 順調に卒業できると
 6年間で医師国家試験受験資格が得られます。
 自動車学校でいうと
 卒業検定を受ける資格を得るわけです。
 自動車学校と違うのは
 医師国家試験に合格するまでは
 仮免許で運転もできないのです。
 ですから国家試験に合格するまでは
 実際に患者さんを縫合することはありません。
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 私が卒業した30年前と比べると…
 医学は格段に進歩しました。
 新しい薬や治療法、
 診断機器も比べものになりません。
 6年間の医学教育で教える量は膨大になりました。
 医師国家試験の問題数も日程も増えました。
 医学部の学生さんは、
 膨大な医学知識をとにかく詰め込まれます。
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 ところが…
 今も…昔も…
 卒業までに…
 他人に針を刺して採血することすら…
 正規の医学教育ではありません。
 看護師も同じです。
 医学部では、
 針と糸を使って縫う‘実習’はありません。
 キズを縫うことができなくても、
 医師免許証はいただけます。
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 つまり、
 医師免許証をいただても…
 看護師免許証をいただいても…
 採血すらできないのが…
 新人のお医者さんや看護師さんです。
 免許証をいただいてから、
 実際のトレーニングがはじまります。
 ほんとうの意味で、
 優秀な医師か?優秀な看護師か?は、
 卒業後にどんな先輩について、
 どんな指導を受けたかによって決まります。
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 2008年9月8日に
 医学教育と運転教習という日記を書きました。
 大きな病院で…
 手術や検査を受けるとします。
・あなたの検査は、新人の研修医が行います
・当院では、十分な初期研修を行っています
・万一、不測の事態が起こっても、ベテランの指導医が対処します
・研修医がこの検査を担当するのは、3回目です
・2回の検査では、問題はありませんでした
・ただ、指導医が15分で終わる検査に、1時間を要しました
・以上の説明を受け、検査に同意します
 なんて同意書に署名・捺印ができますか?
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 実際には、上記のような同意書なしに、
 眠らされて…
 ぼぉ~っとしているうちに、
 検査や手術が終了します。
 練習台になる患者さんも大変ですが、
 詐欺のような…
 指導医を続けるのも疲れます。
 千葉県の安達智江先生が、
 朝日新聞への投稿で指摘した点はこれです。
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 いいお医者さんを育てるのは大変です。
 現場の医師が、
 疲れ果てている現実を放置して、
 医学部の定員だけ増やしても、
 日本の医療はよくなりません。
 来年には、
 診療報酬が改定されて、
 医療機関の経営はますます苦しくなりそうです。
 単に医学部の定員だけ増やせばよいと考えている、
 国の方針は間違っています。

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