院長の休日
心に残るひととき「宝物の1円玉」
平成29年10月18日、朝日新聞朝刊の記事です。
渡辺えりの心に残るひととき
「宝物の1円玉」
相手思いやる心、私も磨きたい
俳優の渡辺えりさんに、本紙生活面の「ひととき」に掲載された中から印象に残った投稿を紹介してもらう「渡辺えりの心に残るひととき」。3回目となる今回は、今年7月から9月までの投稿が対象です。渡辺さんが選んだ「宝物の1円玉」を書いた鎌田啓子さんに、記者がお話をうかがいました。
■相手思いやる心、私も磨きたい
宮城県大崎市の鎌田啓子さんの「宝物の1円玉」(8月28日、東京本社版)。レジ係の方の生真面目で温かく、年配の方を尊重する心に私も思わず泣いてしまいました。
年を重ねてきたからこそ感じる感情があります。若い頃はついつい仕事に追われ、出会う方たちに冷たい態度を取ってしまったことも度々あったように思います。後悔しても取り返しのつかない苦い思い出も、多々あります。
老齢に差し掛かり、客観的に周りを見渡すことが出来てくると、思いやりのある心の濃い人を乞う気持ちが強くなってきます。あいさつを交わしたり、笑顔で接したり。若い頃はあまり気にならなかった人のしぐさに心が癒やされ、生きる勇気を得られたりしてくるのです。
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相手の身になって考える思いやりの心というのは、どうやると育っていくのでしょうか? この「リサ」さんという元気の良い店員さんが残したメモに泣かされました。
「1円くらいどうということはない」と思うのが普通かもしれません。しかし、この店員さんは、高齢になった男性が小銭入れからパラパラとお金を落としてしまい、「慌てて拾って会計を済ませて」いく様子を見ていたのでしょう。その姿に、「気の毒な事をした。自分も手伝ってあげれば良かった」と後悔したのではないでしょうか。落ちていた1円玉を見つけたとき、なんとしてでもお返ししなければと考えたこの店員さんの自立した精神の素晴らしさ、正しさに感動します。
真正直ではつらつとした店員さんのいるスーパーは信用できます。私の近所にも、いつもトイレがピカピカに磨かれているスーパーがあります。隠れた見えない部分を磨き上げる精神を育てていきたいと、強く思います。
劇場に入ったときも出ていくときも、必ずトイレ掃除をしてトイレットペーパーを補充するようにと、劇団員には最初に教えています。しかし、今は劇場には係の方がいらっしゃるようになり、若手も昔からの思いやりの精神を学ぶ機会が少なくなってしまいました。みんな悪気はなく、何も気づかなくなってしまったのです。1円玉が落ちていることさえ気が付かないくらいの、ぼんやりした感覚でも生き延びられるようになってしまった現代の日本という国があります。
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ぼんやりと薄暗い社会の中で光を生み出していくのは、血のつながりのない者たちが互いに思いやり支えあう心なのではないでしょうか?
私も諦めず人を信じて愛して、観客の笑顔のために頑張ります。
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わたなべ・えり1955年、山形県生まれ。デビュー40周年を記念したファーストアルバム「夢で逢(あ)いましょう」が発売中。来年2月には、主演舞台「喜劇 有頂天一座」を上演。
■宝物の1円玉(2017年8月28日付、東京本社版)
いつも行っているスーパーでのこと。会計の時、夫が小銭入れからパラパラとお金を落としてしまい、慌てて拾って会計を済ませて帰ってきました。
それから数日経ったある日。元気のいいレジ係の女性が寄ってきて、「先日落としたお金です。レジの下に落ちていました!」と、紙に包んだ1円玉を差し出しました。紙を破って1円玉を取りだそうとしたので、私はとっさに止めました。「汚い字なので」とためらう彼女に頼んで、包んだままをいただきました。こんなに大事に包まれた1円玉を見て、彼女の気持ちを破るのはもったいないと感じたのです。
広告の裏紙で作ったその小さな袋には、こうメモしてありました。
「5月24日(水) いつも来るお客様の1円です!次に来た時に渡すのでおいてて(保管)下さい(落としていった)!(リサ)」
彼女はいつも笑顔で声をかけてくれます。私たち夫婦はこの方に元気をいただくので買い物を楽しみにしています。1円玉は袋に入ったままで封を切っていません。大事な大事な私の宝物だからです。あなたの元気で明るく誠実なお客様への対応に感謝しています。
(宮城県大崎市 鎌田啓子 無職 72歳)
■<投稿者から>彼女の素晴らしさ伝えたくて
ひとときに投稿しようと思ったきっかけは、このリサさんが、レジ係からほかの業務に移ってしまうと聞いたことでした。
「こんなにもお客のことを考えてくれる素晴らしい人は、なかなかいない」ということを多くの人に知ってほしかったのと、リサさんへのこれまでの感謝を、何か形にできないかと考えたのです。
いま、彼女は常に店頭に出るお仕事ではなく、商品管理のお仕事をされているそうです。レジでお会いできないのはさみしいですが、たまにお店で姿を見かけます。そのとき、彼女が必ず笑顔で声を掛けてくれるのが、またうれしくて。「今日は旦那さまは?」「体調どうですか」など、こちらのことをよく覚えていてくれます。「今日は会えるかしら」と、スーパーに行く別の楽しみができました。
あの1円玉は、財布の中に入れてあります。これからも、大事にとっておくつもりです。
■ひとときとは1951年10月2日に東京本社夕刊家庭欄に誕生。以来、女性のための投稿欄として歴史を重ねています。
◆「渡辺えりの心に残るひととき」は3カ月に1回掲載します。次回は1月の予定です。
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私が2017年8月28日の院長日記でご紹介したひとときです。
たくさんの人の心に残ったのだと思いました。
新聞やTVでニュースを聞いても、
あまり楽しいニュースがありません。
札幌は寒くなってきました。
今日は旭岳で遭難した4人が救助されたという、
うれしいニュースがありました。
救助隊の方に感謝です。
ありがとうございました。