医学講座

歯の再植(サイショク)

 平成20年2月3日、朝日新聞朝刊、『ひととき』への投稿です。
 必死で捜した歯
 中1の息子と三女を送り出して、さてと思ったら、鏡の前に息子がいる。「どうしたの、遅刻しちゃうよ」と言いかけて言葉をのみ込んだ。
 振り向いた息子は血まみれの□から血を滴らせ、「もう元に戻らん」と泣き出しだ。
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 「歯はどこにあるの」と叫びそうになった。登校途中、自転車で転んだという息子の□には、上の前歯がなかった。
 息子をせっついて、血の跡の残る凍ったアスファルトにほおをすりつけるようにして捜したが、見つからない。
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 歯、息子の歯。毎晩仕上げ磨きし、毎年の検診で歯垢を除去し、虫歯のない、きれいに並んだ、これだけは本当に自慢の歯。
 早くみつけなくっちゃ、車にひかれてこなごなになっちゃう。
 必死の私に「母さん、あれ」と息子が指さした。側溝の水の中で、白い4㌢もある三日月形が輝いている。
 じゃぶじゃぶ入って拾いにいった。
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 切るのか縫うのかと思った修復手術は、抜け落ちた歯と穴をきれいにして差しこみ、隣の歯と接着剤でとめるものだった。
 歯がつくかどうかは本人の回復力次第という。
 がんばれ、息子。
 毎日好きなだけ食べて、眠って、野球をしているのは、こんな時のだめでしょう。
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 夜、4人の子どもに言った。
 「歯でも落としたら必ず拾いなさい。泣いて見失うようなまねをするんじゃない」
 山口市 平田美子 無職 42歳
 (以上、朝日新聞より引用)
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 口腔外科(コウクウゲカ)の先生に伺いました。
 歯の根っこ、歯根の表面には歯根膜という組織があります。
 その歯根膜が60%以上生きている場合は、速やかに戻せば元どおりにくっつくそうです。
 これを歯の、再植(サイショク)といいます。
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 もし、歯が取れてしまったら、歯を捜して、拾います。
 できれば、生理食塩液につけて、できるだけ早く歯医者さんへ行きます。
 生理食塩液は、医療機関であれば、だいたいどこにでもあります。
 少し大きな、ドラッグストアでは売っています。
 できれば、生理食塩液で歯を洗って、その液につけて歯医者さんへ行きます。
 何もなければ、拾った歯を口の中に入れて、
 飴(アメ)をしゃぶるようにして、口の中で‘保存’して、歯医者さんへ向かいます。
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 歯医者さんでは、歯が抜けた『穴』に歯を入れて
 ‘ひととき’の方のように、強力な糊(ボンドのようなもの)で固定します。
 歯根膜が、しっかりしていて、条件がよければつきます。
 早ければ早いほどよいそうです。
 間違っても、消毒用アルコールなんかには漬けないで下さい。
 歯が死んでしまいます。
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 歯の再植の専門は、口腔外科です。
 街の歯医者さんでも、できるそうです。
 良い歯医者さんを見つけられて、運がよければつきます。
 皮膚が削げてしまった時にも、付けることができます。
 これは形成外科が専門です。
 機会があれば、ご紹介したいと思います。

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