医学講座
脂肪吸引の医療事故2016
弁護士の高橋智先生から教えていただいた、
医療事故情報センターニュースです。
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センターニュース
2016年4月1日発行 N0.337(5)
弁護士リレーエッセイ
福島和代(佐賀県弁護士会)
美容医療過誤事件について
1 はじめに
私は55期で佐賀県弁護士会所属です。佐賀に登録して間もない頃、たまたま受けた医療過誤事件について相談させていただいたのをきっかけに、九州・山ロ医療問題研究会に登録させてもらいました。医療過誤事件で分らないことがあると医療研の先生方にいつも質問させて頂いております。医療研のみなさまには、いつも有益かつ的確なアドバイスをいただき、ありがとうございます。
2 美容医療トラブルの相談
私は、医療研佐賀支部所属ということで、傷病等をきっかけにした医療過誤事件も受けますが、その他にも、消費生活センター等で、美容医療トラブルの相談を受けることがあります。美容医療に関する被害は、医療過誤というより消費者被害に近い側面があり、やってみてびっくりするようなことが沢山ありました。私が過去に受任した脂肪吸引の医療過誤事件についてご報告させて頂きます。
3 被害者のきっかけ、勧誘
本件の被害者は、友人と一緒に女性雑誌の広告を見て、この美容外科に電話をしたのが事件のきっかけでした。広告では、脂肪吸引手術の施術前の太った写真、施術後のマネキンのように痩せた写真が並べられていたそうです。被害者は来院して医師から無料カウンセリングを受けたものの、それは、太腿を指して「この辺が痩せられる」等の説明で、脂肪吸引手術の危険性についての説明はなく、手術から3日でデスクワークには戻れると言われたそうです。
医師のカウンセリングの後にはカウンセラーと称する女性スタッフ(看護師、臨床心理土等の資格職ではない、受付の人)から、さらに勧誘を受け続け、腕のよい医師、最新の設備、アフターフォローは万全との説明を受けて、被害者は脂肪吸引手術を受ける契約をしました。代金は90万円以上しましたが、美容外科にはクレジット契約書も用意してあり、その場でクレジットの申込も出来ました。
4 脂肪吸引手術とその後
被害者は、午前10時から午後5時くらいまで、約7時間かかって脂肪吸引手術を受け(複数の患者の手術を同時に行っていたようです。)、終わった後には手術と硬膜外麻酔の影響で痛みと吐き気がありました。しかし、その美容外科は外来診療のみで入院設備がなく、診療時間が終わると病院にも居られず、被害者は、友人の運転で、途中で嘔吐しながら帰宅しました。
脂肪吸引手術後は、両脚全体に浮腫が起こり、1ヶ月位は靴もまともに履けませんでした。浮腫のために膝は3ヶ月くらい曲がらなかったそうです。
本件の被害者は、脂肪吸引手術の後に起こる浮腫以外に、吸引手術後の処置がまずく、固定していたテープが皮膚に直接貼られていて、そこがラテックスアレルギーを起し、さらに炎症して感染症を起し、化膿して、皮膚が剥がれてしまいました。
被害者が電話で相談しても、その美容外科は、被害者に来院を指示せず、診察もせずに、抗生物質と軟膏を郵送しました。医師の検診は手術の1週間後でした。検診までの間は、自分で施術箇所を消毒するのですが、患者が自分で感染症の管理をするのは難しいと思います。 1週間後の検診で、普通の医療機関に転院するように勧めてくれればよかったのですが、医師は、抜糸して、抗生物質と軟膏を処方し、3週間後の来院を指示しました。次の受診までの間も、自分で消毒しなければなりません。 しかし、傷口はどんどん広がり、深くなり、潰瘍になって、膿がとめどなく出て、褥創のようになり、被害者は微熱が続きました。
被害者は電話で相談しましたが、来院の指示も、転院の指示もありませんでした。3週間後の受診で、被害者はMRSAに感染していることが分りましたが、次の受診はさらに1ヶ月後で、その間、自分で消毒して、薬を塗り続けました。
脂肪吸引手術から2ヶ月後、被害者の左右の太腿の大きさが異なっていること、潰瘍がひどくなり、褥創みたいになっていることを訴えました。結局、時間の経過とともに傷口が大きな痕になってしまったので、目立たないようにする治療を受けましたが、あまり効果はありませんでした。アフターフォローは万全という説明でしたが、美容医療で実際に事故が起きてしまうと、なす術がないのだと思います。
5 受任、協力医師への相談
私は被害者から相談を受け、本件を受任し、協力してくださる医師に相談に行きました。2名の医師に、それぞれ別の機会に相談に行きましたが、どちらの医師も普通の内科・医師で、被害自体にあきれられてしまいました。こんなの医療じゃないと半ばお怒りで、「この診療経過のどの辺が問題でしょうか?」という私のとんちんかんな質問に対して、「そもそも脂肪吸引なんてすることがおかしい、脂肪って、ゆらゆら浮いているものじゃないんだよ、筋肉と皮膚の間に脂肪があって、がっちり組織が繋がっているのに、脂肪吸引なんかしたら、中の組織は、皮膚と筋肉の間が離れちゃって、ぐちゃぐちゃになってしまうんだよ!]と、脂肪吸引がいかに危険か力説されてしまいました。また、「これで90万も取るの!」と、私が事案を説明すればするほど憤りが高まられ、普通の内科医師からすると、脂肪吸引をする医者も、受ける患者も、どっちも理解できないという感じでした。私としては感染症になったことについて何か意見をもらえればと思ったのですが、医師から意見書をもらうような事案ではないと判断し、訴訟提起をしました。
6 訴訟、美容外科の倒産
美容外科を被告として訴訟を提起しましたが、訴訟継続中に、美容外科を経営していた医療法人が倒産してしまいました。 このまま逃がしてはならんと思い、担当医師を被告に追加して訴訟を継続し、担当医師から慰謝料を支払ってもらうことで和解しました。
7 事件を終えて
被害の程度からすると、本件の慰謝料は低かったように思います。しかし、美容医療の場合、後遺障害の等級でいうと低めに出てしまうため、なかなか損害額の認定が高額になりません。
私が事件を担当して思うのは、美容医療過誤の被害は作られている面があるということです。非常に危険でも、その説明を十分に行わずに、脂肪吸引等の美容医療の広告、勧誘が行われているケースを見ます。普通の医師の常識的な立場から、きちんと危険性の説明を受ければ、脂肪吸引などの美容整形手術を受ける人はかなり少ないのではないでしょうか?
また、実際に被害に遭っても、後ろめたさ、恥ずかしさで外部に相談できず、被害を受けた美容外科の医師に頼ってしまい、他の医療機関に繋がらないケースも多いと感じます。まして弁護士に相談されない方も多いでしょうし、相談を受けても受任にまで至らない方は多いです。本件では、被害に遭ってもその美容外科に通い続け、弁護士に相談した時には、被害から相当の時間が経過していました。なんとか解決まで辿り着きましたが、被害者が被害を受けた美容外科に通い続け、囲い込まれてそのまま泣き寝入りのパターンは相当あるのではないかと思います。正確な情報を発信して被害を減らす取組が必要だと感じました。
(以上、センターニュースから引用)
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同業者として残念な事件です。
この医療事故情報センターニュースで掲載されなければ、
美容外科に従事する医師に知られることもなかったと思います。
私の正直な感想は、
被害者の女性が、
【死ななくてよかった】
【生きていてよかった】
です。
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脂肪吸引のトラブル
2007年5月15日の院長日記です。
PRSという米国形成外科学会雑誌に掲載された学術論文です
大手美容外科(倒産しました)で起こった事故です。
感染症で命を落とす寸前でした。
救ってくださったのは、
北大形成外科の先輩です。
現在は武蔵野赤十字病院形成外科にいらっしゃる、
梅田整(うめだただし)先生です。
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弁護士の福島和代先生が書かれているように、
脂肪吸引手術の危険性についての説明はなく
手術から3日でデスクワークには戻れる
医師のカウンセリングの後には
カウンセラーと称する女性スタッフ
(看護師、臨床心理土等の資格職ではない、受付の人)から、
さらに勧誘を受け続け、
腕のよい医師、最新の設備、アフターフォローは万全との説明を受けて、
被害者は脂肪吸引手術を受ける契約をしました。
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こんな美容外科は日本中にたくさんあります。
厚生労働省も、
消費者庁も、
マスコミも、
積極的に摘発しようとはしていません。
私が昨年4月に京都で開催された第58回日本形成外科学会で、
厚生労働省、医政局総務課医療安全推進室長
厚生労働省医療安全推進官
大坪寛子先生に質問しました。
残念なことですが、
派手なCMでだまされる女性は現在でもいます。
不幸な事故が無くなる日が来ることを祈っています。
この問題を書いてくださった、
佐賀県弁護士会の福島和代先生に感謝いたします。