医学講座
ある日突然_薬でショック③
朝日新聞朝刊の連載記事、
ある日突然_薬でショックの続きです。
大浦武彦先生のお誕生日の院長日記で、
1日遅れになりました。
毎日興味深く読んでいます。
今日の院長日記は昨日の朝刊です。
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平成28年5月11日(水)朝日新聞朝刊の記事です。
(患者を生きる:3049)ある日突然_薬でショック③_瓶割れ吸引「もうだめだ」
2015年10月、兵庫県の准看護師の女性(49)は勤め先の総合病院の内視鏡部門で、検査の準備に取りかかろうとしていた。受診者に内視鏡を入れる前に、「キシロカイン」という麻酔薬をスプレーでのどに吹き付ける処置で、女性はこの薬にアレルギーがある。
スプレーをするとき、女性はマスクと手袋をし、肌が出ない感染防護用のエプロンを身につけていた。噴射した薬が自分にかからないよう、なるべく腕を伸ばして体から遠ざけてもいた。
いつも通り、薬の瓶にスプレー用のノズルを付けようとしたが、うまくはまらなかった。力を入れてノズルを押し込んだところ、瓶を落としてしまった。瓶が割れ、薬がこぼれて床に広がった。
「早く拭かないと」
アレルギーのことが頭にあり、慌てた。近くの紙おむつをつかみ、しゃがんで薬を吸わせ、ごみ箱に捨てた。マスクをしていても蒸発した薬を吸い込んだようで、次第に気分が悪くなった。
スプレーを終え、受診者の頭が動かないよう押さえているときに、耐えられなくなった。
「キシロカイン吸った」
そうつぶやくと、しゃがみ込むように床に倒れた。顔も手足も蒼白(そうはく)になった。呼吸が乱れ、酸素が足りなくて唇が赤紫色になるチアノーゼを起こした。吐き気がしてえずいた。
約30年前に虫歯治療の麻酔薬で初めてアレルギーが起きたときよりも、ずっとつらく、症状も重い気がした。血圧の低下と意識の障害が伴うアナフィラキシーショックという状態だった。
「今日は死ぬな。もうだめだ」
意識が徐々に薄れていった。
近くにいた消化器内科の医師にその場で酸素吸入や、血圧を上げるアドレナリン注射などをしてもらった。救急外来へ運ばれた後、ステロイド剤や2度目のアドレナリン注射などを受けた。
瓶が割れてから約1時間後、ICU(集中治療室)に移され、意識が少しずつ戻ってきた。気付くと、顔見知りの職員たちに取り囲まれていた。
「恥ずかしい」「これ以上迷惑をかけたくない」。そんな思いから「もう、うちに帰りたい」と口にした。(鍛治信太郎)
(以上、朝日新聞より引用)
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キシロカインという薬は、
歯科麻酔にも使います。
けがの治療にも使います。
内視鏡にも使います。
耳鼻科で鼻を診る時にも使います。
座薬を入れる時に使うこともあります。
二重埋没法にも使います。
ヒアルロン酸に入っている製剤もあります。
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これほど世界中で使われている麻酔薬はありません。
不整脈の治療に使う、
静注用キシロカイン
じょうちゅうようキシロカインという注射薬もあります。
医療関係者で、
この薬にアレルギーがある人は、
私は今までに聞いたことはありませんでした。
■ ■
薬剤の瓶を落として、
割れて、
その液体を吸入しただけで、
このようなショックは恐ろしいです。
マスクをしていたと書いてあるので、
吸った量は微量だと思います。
今日は死ぬな
もうだめだ
…と思ったのも当然です。
■ ■
私が強調したいのは、
キシロカインスプレーを、
落として吸入しただけでショックです。
外傷の処置などで、
局所麻酔として注射していたら、
もっと重篤な症状になった可能性があります。
きわめてまれなことでも、
起こってしまうと大変です。
なんちゃっての先生でも
アナフィラキシーショックに適切に対応できることが大切です。