医学講座
形成外科と保険診療の歴史2016
私の保険診療へのこだわりには理由があります。
形成外科医になってもうすぐ40年になります。
25年は勤務医として働きました。
大きな病院の形成外科は、
原則として保険診療しかできません。
公立病院などは、
条例改正までしないと、
自費診療ができないところがあります。
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中村純次先生の想い出
2011年6月14日の院長日記です。
私たちの年代の形成外科医にとって、
日本形成外科学会社会保険委員会と、
中村純次先生のお名前は、
忘れることができない記憶です。
毎年春の日本形成外科学会で、
中村純次先生のお話しがありました。
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中村先生は、
東京慈恵医大のご出身で、
東京厚生年金病院で形成外科を担当されました。
日本形成外科学会の重鎮でした。
昔は…
保険で治してあげたいのに…
保険適応にならない 病気がありました。
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2008年6月30日の院長日記、
山形大学の事件⑥に書いてあります。
生まれつき、
耳がない子どもさんがいます。
今は、保険適応になっていますが、
昔は耳をつくる手術が
保険適応になりませんでした。
昭和50年の毎日新聞社会欄に
「ボク、左耳がほしい。健保なぜきかないの?」
という記事が出ました。
耳がない病気の子どもさんが、
当時の田中厚生大臣に手紙を書きました。
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その翌日に、
「左耳、手術できるよ」と、
田中厚生大臣が健康保険の適応を認め、
それが毎日新聞の記事になっています。
このことを書かれたのは
日本形成外科学会で、
長い間、社会保険委員をなさった、
東京厚生年金病院の故中村純次先生でした。
中村先生が、
1982年に
日本形成外科学会25周年記念誌に書かれました。
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キレイなるために
鼻を高くする、
おっぱいを大きくする、
これはもちろん美容外科の手術です。
保険はききません。
不慮の事故や
熱傷で
キズができてつっぱっている、
そのキズを少しでもよくしたい。
これは形成外科の手術です。
形成外科では保険診療で手術をしています。
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私たちの先輩にあたる形成外科医が
長い年月をかけて保険適応にしてきた、
【形成外科戦いの歴史】があります。
今では、
乳癌手術で無くなった乳房を再建するのに、
健康保険が使えます。
誰も不思議には思いません。
10年前は保険適応ではありませんでした。
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厚生労働省と折衝して、
形成外科の必要性や有用性を説明し、
長い年月をかけて…
保険適応を拡大してくださったのが、
故 中村純次先生でした。
毎年春の学術集会では、
私たちに保険診療のしくみやルールを、
懇切丁寧に指導してくださいました。
形成外科の保険診療を発展させて下さった業績は、
日本形成外科学会にとっては、
勲一等以上の偉業だと思っています。
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私がJA帯広厚生病院形成外科に勤務した時代、
釧路労災病院形成外科に勤務した時代、
市立札幌病院皮膚科に勤務した時代、
なんとか保険で治してあげようと、
たくさん努力をしました。
あまり知られていないことですが、
今でも、
事故でできた顔のキズでも、
保険で治すのが難しいことがあります。
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交通事故と顔のけが
2011年12月17日の院長日記に書いてあります。
一番困るのが…
健康保険の適用にならない治療です。
現在の日本の健康保険制度では…
運動制限がない傷あとは…
手術費用が出ません。
つまり…
目が閉じられないとか…
口が開かない場合以外は、
目立つ傷あとでも健康保険の対象とはなっていません。
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日本形成外科学会では…
長年にわたって国と交渉していますが…
◇瘢痕拘縮形成術について
⑴単なる拘縮に止まらず運動制限を伴うものに限り算定する。
…と明文化されています。
運動制限のない拘縮(単純な傷あと)は、
算定できない⇒保険請求できない
…という決まりになっています。
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もっと困るのが…
傷あとの茶色の色素沈着です。
このような『しみ』は保険の対象となりません。
でも…
交通事故の被害に遭った女性は…
事故のおかげで…
私の(美しい)顔が台無しになって…
先生何とか治してください
どんなにお金がかかっても…
保険会社に請求してください
…と来院されます。
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私は30年以上形成外科をやっていますが…
何度か保険会社と喧嘩したことがあります。
患者さんは困ってるんだから…
保険で治療できるようにするのが…
あなたたちの仕事でしょうに!
形成外科で治療する頃には、
自賠責保険を使い果たしていて、
治療費を払ってもらうのに苦労した人もいました。
保険会社には、
自分の娘がけがをしたら…
…という気持ちで対応して欲しいと…
いつも思っています。
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私の人生の中で、
北海道中央バスの車内放送で、
『わきが手術は健康保険で受けられます』という、
広告を流したのは、
開業への思い②に書いた、
少しでも形成外科のことを知ってほしい、
形成外科は保険診療で受けられることを知ってほしいという、
私の強い願いからです。
無理なお願いをきいてくださった、
KMアドの門脇さんには今でも感謝しています。